病院について Part6

七奈のパルボ感染

七奈は生後7ヶ月くらいの時、私の不注意からパルボウィルスに感染してしまいました。猫汎白血球減少症 (通称猫パルボ) は、別名猫ジステンパーとも呼ばれ、免疫をつかさどる白血球が急激に破壊されることから、生後間もない子猫が感染すると致死率が50%にも達するという恐ろしい伝染病です。この病気の原因となるパルボウィルスは非常に生命力が強く、条件が整えば1年以上も生きられると言われています。(ちなみに、猫エイズのウィルスは唾液から排出されて空気に触れるとすぐに死んでしまうそうですから、パルボウィルスの強力さがわかりますよね。) ただ幸いなことに、このウィルスにはワクチンがあり、予防接種を受けていれば感染の確率はぐっと低くなるのです。

それなのになぜ七奈がパルボに感染してしまったのか…。それはもう私の不徳の致すところとしか言えません。当時私はワクチンについてネットや本、あるいは猫の病気に詳しい人から聞いた情報を自分なりに整理して、ワクチンは不要なものであると考えるようになっていました。特に、お兄ちゃんがワクチンの副反応によって注射のたびに高熱を出したり具合が悪くなったりしたのを見ていましたし、ワクチンを摂取するとその部位に繊維肉腫という非常に悪性度の高いガンが発生する可能性があることを聞いてから、ワクチンの接種は体に悪いものだと思うようになっていたのです。そして、ある方に 「サプリメントをあげているから、うちの子にはもうワクチンは接種しない」 と聞いてから、サプリメントをあげていれば3種混合ワクチンで予防する程度の病気ならば防げる (そこまで免疫力がアップする) のだとも考えていました。

しかし、私の認識は明らかに間違っていました。ある日突然、食いしん坊だった七奈がご飯をまったく食べなくなってしまったのです。しかも、胃液のようなものを何度か吐いたのです。これがお兄ちゃんや小次郎だと、ご飯をムラ食いしたり嘔吐したりというのは日常茶飯事なのであまり気にしないのですが、普段めったにこんなことの無い七奈なので私は怪訝に思い、その日は仕事があったため母親に近くのS病院に連れて行ってもらいました。帰宅して様子を聞くと、食欲はまだないけど元気はあるし、熱もないから急性胃腸炎だろうと言われたとの事でした。私は一安心してそのまま七奈の様子を見ました。

七奈は翌日にはいつもの調子に戻り、ご飯も食べるし嘔吐もしなくなりました。しかしそれから1週間後、七奈はまた同じ状態になってしまったのです。どうして1週間おきに同じような状態になるのか不思議ではありましたが、その日も仕事があったためまた母親に病院に連れて行ってもらいました。そして昼休みになって母親に電話をかけると、母親からとてもショッキングな事実が告げられました。七奈はパルボに感染していたのです。母親はパルボがどんな病気か知りませんので、病院で言われたことを私に言っただけでしたが、私は猫パルボが恐ろしい病気であることは知っていましたので気が動転して頭の中が真っ白になってしまいました。

電話を切ってからお弁当を広げてはみたものの、とても食欲などありません。そのうちあまりのショックに箸を持つ手が震えてきました。幸いその日はあまり忙しくない日だったので、上司と同僚に「緊急事態が起きたので早退する」 と了解を得て、車をとばして帰宅しました。家につくと七奈はよほど具合が悪いらしく、姿を隠してしまってどこにいるのかわかりませんでした。そこで、とりあえず七奈はそのまま一人で静かにさせておくことにして、猫の病気に詳しい方に電話をして、まず私は何をすべきなのか相談しました。すると、とりあえず他の子への感染を防止するために、家の中を全部ハイターを含ませた雑巾で拭くように、それから七奈が使ったベッドや敷物などは処分するようにと言われました。先にお話した理由から、お兄ちゃんたちもその年はワクチンを接種していなかったので、私は3匹全員がパルボに感染してしまったらどうしようと、青くなりながら家の中の床という床を2階から玄関まで半日かけて雑巾がけをし、特定のベッドや敷物は無かったのですが、自分の布団で一緒に眠っていたので毛布や布団カバーを濃いハイターをいれて洗濯しました。

夕方、病院の診察時間になったので、詳しい話を聞きに私だけで病院に行きました。その時点では私はパルボがそれほどまでに恐ろしい病気であることを認識しておらず、七奈が産まれてすぐ (2、3ヶ月) の子猫でもなかったため先生に 「2、3日もすれば回復しますよね?」 とのんきな事を言ってしまいましたが、先生からは 「白血球の数値がかなり下がっているので、その数値が回復してくれば良いがそのまま回復しないとどうなるかわからない」 と言われました。私はあらためて自分の認識の甘さを反省し、何としても七奈が回復するようとにかくできる限りのことはしようと決心しました。

その日から七奈の戦いが始まりました。七奈が静かに休めるように、そして感染はしていないと思われましたが念のためお兄ちゃん達と隔離するために、私の部屋から出さないようにしました。七奈は胃腸に激しいダメージを受けてしまったため2時間おきに嘔吐を繰り返し、それ以外はぐったりとして動く気力もないといった様子で見るからに辛そうでした。そのうち血便も出るようになり、部屋に持ち込んだトイレはまるでケチャップをこぼしたかのような、鮮血が混じった便で真っ赤になりました。

パルボと診断された翌日から会社は祭日を含む3連休だったため、朝からつきっきりで七奈の看病をしました。とは言っても何もできることは無いので、ただ抱っこしてあげたり、添い寝をしてあげたり、ハンドパワーで気を送ってみたり、そんな何の役にも立たない事をしていました。夜は眠ろうと思っても2時間おきに七奈が嘔吐するので、その度に起きて後片付けをしなければならず、ほとんど眠ることはできませんでした。そこで3日目の夜は徹夜をすることにしました。一晩くらい眠らなくても死ぬ事はありません。それよりも生死の境をさまよいながらも一生懸命がんばっている七奈をずっと見ていてあげたいと思いました。

即効性のある 「活」 を飲ませたら少しは効果があるかもしろないと思ったのですが (「活」 については こちらのページ を参照して下さい)、ご飯はもちろん水も飲ませてはいけないと言われていたので、飲ませてやる事はできません。そこでふと思いついて加湿器に活の水をたっぷり入れ、部屋の中に噴霧することにしました。季節は11月の末で夜はストーブが必要な時期だったので、ずっと暖房をつけていると空気が乾燥します。乾燥は脱水症状気味の七奈には良くないので、一石二鳥だと思いました。そこでボトルの活を一気に1/4加湿器のタンクに入れ、水を足して部屋へ持ち込みました。それから一晩中加湿器をつけ、タンクが空になるとまた活を入れた水を注ぎ足して過ごしました。七奈は何かを感じたのか、ちょうど加湿器の霧が落ちるあたりに移動してぐったりしてはいましたが、少し呼吸が楽になった様子でずっと眠っていました。

口から水も栄養も摂取できない七奈にとって、病院の点滴は命をつなぐ唯一の手段でした。そこで朝晩2回病院へ通い、大きな注射器2本の点滴 (いろんな種類のビタミンなども入っていたみたいです) と免疫力を高めるためのインターフェロン、吐き気止め、抗生物質など何本かの注射を打ってもらいました。(2回ほど休診日にも特別に病院をあけてもらいました。) それぞれの注射の値段をたせばおそらくかなりの金額になっていたと思いますが、1日2回、しかも毎日のことなので、先生はある程度ドンブリ勘定で休診日の特別料金も取らずに治療をしてくれたようです。

その甲斐あってか、私や七奈の事を心の底から心配してはげましてくれた猫友の祈りが通じたのか、はたまた七奈の生命力が強かったのか、七奈は4日目くらいに嘔吐の回数がかなり減り、その後はだんだんと起きている時間が長くなり、10日目くらいから少しずつ動き出し、2週間目には晴れて治療が終了となりました。その間、七奈は飲まず食わずで点滴だけで生きていたため、体重は2週間で1.5kgも減り、(体重50kgの人が2週間で20kgダイエットしたようなものです) その姿は骨と皮ばかりのガリガリで歩く事もままならない、階段など上り下りもできない状態になってしまいました。しかも嘔吐するたびに濃いハイターの液を霧吹きで床にまいて掃除をしていたので、私の部屋はハイターの臭いが充満しており、七奈にも病院とハイターの臭いがしみついてしまって、久しぶりに私の部屋から出た時にはお兄ちゃんと小次郎にシャーシャー威嚇されてしまいました(^^ゞ

2週間たってだいぶ元気にはなりましたが、血便が最後まで続いていて、胃腸疾病用の療法食を少しずつ食べるようになってから、だんだんと調子のよい便に戻っていきました。そしてこの時あまりに七奈がやせてしまったので、どんどん食べろとばかりに一生懸命ご飯をあげていたら、今では5kgを越す大デブになってしまいました。(半年後の避妊手術の時に、太りすぎだから痩せましょうとはっきり言われてしまいました(^^ゞ) 今は小次郎と二人でダイエット用の低カロリーご飯を食べていますが、まったく体重が減る気配はありません…。避妊手術も無事済んだ今は、病気もせず嘔吐もせず、小次郎やお兄ちゃんを追いかけて家の中を走り回るとっても元気な七奈です。

生命の危機を乗り越えて七奈が何とか元気になってくれたので、こうして当時を振り返ることもできますが、もしあの時七奈が死んでしまっていたら、私はきっと一生自分を責めつづけていたでしょう。七奈が身をもってワクチンの大切さを教えてくれた気がします。幸い、お兄ちゃんと小次郎は前年に打ったワクチンが効いていたのか、あるいはもう大人だからなのか、パルボへの感染が判明する前は七奈と一緒にくっついて眠ったりしていましたが感染することはありませんでした。

まだまだ勉強不足な私ですし、はっきりした根拠があって結論を出したわけではありませんが、これからは体力がなく抵抗力の弱い子猫には必ずワクチンを接種し、もし副反応が出たり、ある程度大人 (3歳くらい) になったら体力や抵抗力もそなわってくるでしょうし、それまでのワクチンによる抗体も残っていると思うので、接種は1年おきあるいは2年おきくらいにしようかと考えています。

一日も早く、副作用がなく安全で効果が長続きするワクチンが開発されてくれればと思います。(特にFIPとエイズのワクチンは欲しいですね〜。)
Last updated: 2003.2.23