すぐそこ、ロンドン

翌朝、当然ながら朝食は予約していなかったのでテレビのワイドショーを見ながら買ってきたパンをかじり、何となく時間を過ごして10時になったのでホテルを出ました。そしてホテルの送迎バスでターミナル1に向かいました。まだ時間は早かったのですがスーツケースを持っていると邪魔なので、真っ先にチェックインカウンターに向かいました。そして入り口でスーツケースの中身のX線検査をするのですが、そこで係員の人に「このまん中に入っている丸い金属のものは何ですか?」と聞かれました。何だかわかりますか?そうです、これは猫缶です。ローラとアーチにあげようと、ナチュラルバランスのチキン味とオーシャンフィッシュ味を1缶ずつ入れてあったのでした。そこでドギマギしながら「あの…、猫缶です」と言うと係員の人は意外にあっさりと「そうですか。車のワックスかと思ったので」と言いました。私は検疫の関係で没収されるのかと心配になったり、何ならスーツケースをあけて猫缶と安全なフードの重要性について説明してあげようと思ったのですが(^_^;)、そんな心配をよそにOKのシールを貼られてスーツケースは無事X線検査を通過しました。

そしてチェックイン カウンターへ行って、ボーディングパスを発行してもらいました。電話をした時おじさんはアップグレードしてくれるとは言っていましたが、ちゃんと話が伝わっているのか心配でじっとグランドアテンダントのお姉さんの様子を見ていました。お姉さんはあまり慣れていないようで発券までにちょっと時間がかかり、その上渡されたチケットを見ても特に搭乗クラスが明記されていないので念のため「エコノミープラスの席ですよね?」と聞くとお姉さんは「はい、そうです。」と答えてくれました。私は一安心して座席の番号を見るとK22となっています。私は基本的に2という数字が好きで (にゃんにも通じますものね) その上自分の名前のイニシャルがKなので、K (私) が2匹のにゃんにゃんに会いに行くのにぴったりの番号だ〜などと一人で喜んでいました。

ターミナル内のショッピングコーナーをウロウロした後、風邪っぽかったので風邪薬と機内で飲むペットボトルの水を購入して出発ゲートに向かいました。そしていよいよ搭乗開始になり、私はほとんどの人が乗り込んでしまうのを待ってから、ゆっくりとゲートをくぐりました。この時、なにやら大声で興奮している女性客と地上係員のお兄さんが目に付きましたが、そのまま横を通り抜けて飛行機に乗り込みました。座席につくと隣は外国人のおじさんで、オーバーブッキングだけのことはあり機内は満席の状態でした。窓からの眺めが大好きな私は窓側の席を取ったのですが、残念ながら座席は翼の真上で窓にずっと身を乗り出して後ろをのぞかないと地上の景色は全く見えないようでした。そしてまもなく出発という時になって機長から一風変わったアナウンスが入りました。今まで管制塔の離陸許可を待っていますとか、搭乗が遅れているお客様を待っていますというのは聞いたことがありますが、そのアナウンスは「お客さまが突然旅行を取りやめたので、貨物室からスーツケースを下ろしています」というものでした。私は搭乗口でもめていた女性の事を思い出し、きっと彼女が旅行をやめたのだろうと思いました。しかし、わざわざ都心から離れた成田空港まで来て、しかもちゃんとチェックインをして飛行機の搭乗口まで来ておきながら旅行を取りやめるほどの重要な理由って一体何なのだろう?と不思議な気持ちで静かに離陸の瞬間を待ちました。(まさか爆弾テロではあるまいと一瞬思ったのも事実ですが…。)

10分ほどして飛行機は無事離陸し、あっと言う間に地上の景色が小さくなって行きました。しばらくして、食事の前のウェルカムドリンクが出てきたので、お酒がほとんど飲めないおこちゃまの私はコーラを注文してあまり見えないながらも一生懸命外の景色を眺めていました。その時私は着ていた真っ白なジャケットをぬいでひざにかけていたのですが、突然隣のおじさんが私とおじさんの間のひじかけに置いていたビールのグラスをひっくり返し、中身のビールが当たり一面にこぼれて飛びました。そして、一番ビールがかかったのが私のジャケットでした (*_*)。おじさんは平謝りでしたが、とりあえずしみも残らないですみそうだったので、気にしなくていいよ〜とは言ったものの、飛行機から降りてそのジャケットを着て歩いた時にすごいビール臭い酔っ払いと間違われるような人間になっていたらどうしようかと、しみよりその方が心配だったのでした(^_^;)。

その事件?をきっかけに、隣のおじさんと少し話をしました。おじさんは歯科材料のビジネスをやっているとかで、東京に仕事に来て3日いただけで帰るところだと言いました。私はロンドンにいる猫に会いに行くのだと話したのですが、そのおじさんはあまり動物には興味が無いようでそれ以上話が続かなくなってしまったので、あとはずっと静かにしていました。そして食事の時間になったのですが、私はベジタリアンのご飯を頼んでいたので、機内で一番ではないかと思うくらいに早く食事が出てきました。(特注のご飯は目印がついていて一番最初に来るらしいです。) まわりの座席の人はまだ順番がまわって来ないのに私だけパクパク食べ始めるのもいかがなものかと思ったのですが、そんなことをしているとせっかくの温かい料理が冷めてしまうので食べ始めることにしました。(実は、マズイお肉やお魚の料理が嫌でベジタリアンにしたのに、それでも機内食はまずかったので半分も食べられませんでした…。)

そして食事を終えたところで、旅行前に会社の仕事が忙しかったことや、重いスーツケースを担いで成田まで来た事、その上少し体調が思わしくなかった事などが重なって、私はあっと言う間に眠り込んでしまいました。成田からロンドンまでは13時間のフライトなのですが、2回ほど席をたっただけで後はひたすら眠り続け、気がついたらもうロシアを通り過ぎてスカンジナビア半島の上空にまで来ていました。そこからロンドンまでは2時間弱なので、軽食が出て食べ終わる頃にはもうイギリスの上空に入っているはずです。今まで何度もヨーロッパ便を利用しましたが、これほどロンドンが近いと感じたフライトはありませんでした。

しばらくして、また一番最初に私のところに軽食が出てきました。軽食は私の大好きなカレーだったので味に関係なくペロリとたいらげ、後はひたすらヒースローへ向かう空路が表示されるパーソナルモニターと外の景色を見比べていました。快晴の時にロンドン上空を通るテムズ川沿いの飛行ルートを使うと、一番の中心地であるウエストエンド周辺 (ビッグベンやウェストミンスター寺院など) の景色や以前住んでいた家が空の上からはっきりと見える事があるのです。その日は比較的雲の少ない状態だったので、期待に胸を膨らませながら地図を見ていましたが、残念ながらその日はロンドンは通らず北側のウィンザーの方角から進入するルートだったので、次第に近くなってくる地上の景色もずっと同じのどかな田園風景で、どこを飛んでいるのかさっぱりわかりませんでした。しかも、ヒースローは世界で一番離発着の多い空港として知られているように、一発で着陸できることはあまりありません。その日も飛行機は大きく旋回して、モニターの地図上に大きな輪をぐるっと描いたあと、いつもとは反対の西側からほぼ定刻通り無事ヒースロー空港に着陸しました。(この時の機長さんは上手な人で、着陸はとってもスムーズでした。)

懐かしの我が家へ

ヒースロー空港ではターミナル4に着きましたが、このターミナルはもともと利用する飛行機の少ない場所なので、イミグレには係官が二人しかいませんでした。そこへnon-EUの日本人などがどっと到着したので (EU加盟国のパスポートを持っているとノーチェックなのです)、とたんにイミグレには長い列ができてしまいました。そのうち列の様子を見て一人、二人と係官が出てきたのですが、ターバンを巻いたインド系と思われる係官が若い日本人のお兄ちゃん (華奢で小柄でぱっと見中学生のような男の子。多分18歳くらいだとは思うのですが…) の入国審査を始めました。しかし、このお兄ちゃん、まったく英語ができないらしい。係官はゆっくりとわかりやすい英語で根気強く質問をするのですが、お兄ちゃんはポ〜っとした様子で小首をかしげるばかりです。それでも何となく状況はわかってきたようで、知人の家にホームステイをしながら英語を勉強しに来たということでした。しかし、観光以外の目的で入国してしかも長期にわたって滞在する場合、イギリスの入国審査はとても厳しいのでそれなりの下準備をしてこなければなりません。例えば、学校に授業料をいつの分まで納付してあるかという証明書や、イギリスで不法就労をしないようにたくさん残高のある銀行の残高証明書、ついでに必ず帰るという意志を示すためのオープンの帰りの航空券などがあればベターなのですが、このお兄ちゃんはそういう書類もまったく出しません。そのうち何度も係官に言われてやっとわかったらしく、銀行の残高証明書のようなものを出していましたが、どうやらその証明書も日本語で書かれていたらしく、係官は「これじゃあ読めないよ〜。(何とかしてくれ〜(T_T)) といった表情で、時々となりのカウンターを通る英語のわかる日本人に通訳などしてもらいながら少なくとも私がそこで列に並んでいた30分間、お兄ちゃんと係官は極めて困難なコミュニケーションを続けていたのでした。

彼がその後どうなったのかはわかりませんが、その様子を見ていて私が一番驚いたことは、彼にはまったく困難を自分でなんとか切り抜けようとする様子が見られなかったことでした。だれだって最初はうまくしゃべれないのですから言葉は通じなくても、遠く離れた日本からわざわざ一人で勉強に来たというそのやる気、気持ちを伝えよう、わかってもらおうと努力してしかるべきだと思うのです。しかし彼は困ったという表情でも無く、自分から何かを言うわけでもなく、ただとにかくその場に立っているだけでした。この30分の間に審査を終えて入国する何人かの日本人が親切で通訳してくれたのですが、しばらくするとみな彼を残して行ってしまいました。もちろん長時間のフライトで疲れていたり、急いでいたりもしたのでしょうが、それより何より「自分で何とかしなければ」という態度の見えない彼に、「もう勝手にすれば」という気持ちになったのではないでしょうか。彼が遠い異国の地で一人で生活して行けるのかとっても疑問に思いながらイミグレを通過しました。

階段を下りてバゲージ クレームにスーツケースを取りに行きましたが、イミグレで待たされたためほとんどスーツケースは残っておらず、引き取り手を待つ荷物がまばらにコンベアーの上を回っていました。自分のスーツケースを取り、税関と思しき誰もいない通路を通って到着ロビーに出ると、さっそくJoan (Dalley家のお母さん) に電話をして待ち合わせの約束をしてあった駅まで迎えに来てくれるよう頼みました。そしてピカデリーラインのチューブ (地下鉄) に乗って、桜の花が咲き乱れ冬でも枯れない芝生が青々と生い茂る、懐かしいロンドンの景色を眺めながらバロンズコートの駅まで来ました (乗っていたのは地下鉄ですが地下を通っているのは都心の一部だけなので郊外は景色が見えるのです)。そしてホームに降り立つと、そこには以前と変わらないままのJoanが待っていてくれました。ひとしきり再会を喜んだあと、最近購入したというJoanのベンツ (最近良く見かけるトヨタのヴィッツみたいなあの小さなベンツ) に乗って懐かしの (人の家ですが) 我が家に向かいました。

家について、泊めてもらうことになっていたベースメント (半地下) にあるフラットに荷物を入れ、やっと落ち着きました。時間はすでに9時近くになっていたので一緒に紅茶と軽い夜食をいただいて、Joanとお父さんのTerryはその頃イギリスで話題になっていた映画を見に行くと言って誘ってくれたのですが、私は疲れていたのでその日は懐かしのにゃんずが部屋に入ってきてくれることを待ちながら留守番をすることにしました。JoanとTerryがあわただしく出かけてしまった後、部屋の入り口を開けたまま静かに紅茶をいただいていると、まずアーチがドアから顔をのぞかせました。私はあわててスーツケースの中から持参した猫じゃらしを取り出してアーチの前で振ってみました。アーチはをやじ君と似たような体系のずんぐりむっくり、お腹タプタプの大型にゃんなのですが意外に動作は素早く、猫じゃらしに飛びついて遊んでくれました。そうして楽しんでいると、今度は愛しのローラがやってきました。思わず抱きしめたい衝動に駆られましたが、ローラは私のことなど忘れているでしょうし、もともと体を触られる事があまり好きではないので、驚かさないように、ローラが自分から近づいてきてくれるのを待ちました。ローラとアーチは今年で13歳になるとのことでしたが、私が住んでいたころと変わらぬ元気な様子で、また会えて本当に良かったといううれしい気持ちで一杯になりました。しばらく部屋の様子をうかがってにゃんずが出て行ってしまったので、今日の再会はそこまでにして、休む事にしました。


リビングルーム

泊めてもらったフラットのリビングルーム。
ほかにキッチン、ベッドルーム、バスルームがセットになって
1つのブロックを形成しています。


アーチ   ローラ

部屋を訪ねてきてくれたアーチー (左) とローラ (右)
やっと会えました!!
ロンドン 1日目に続く
Last Updated: 2002.6.11