Cahier：雑記帳/その他雑記

2003年03月30日 (日)

　　http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazq18.htm

　視線と顔の向きが、ついにひとつに重なり合うことなく、拡散し合う。絵画空間に於てもっとも逆説的で意表をつく構成であるとも言えるし、求心力と遠心力の精妙に計算し尽くされた構図とも言えるかも知れない。
　複雑に交錯しながらこの舞台を取り巻く多角形の頂点へ　殆ど縦横無尽なあらゆる対角線を引いて行くかのようだ。

　この暗い舞台を黙々と占拠しているのは、視線ばかりではない。

　絵画空間と一口には言うものの、ここでは画面を構成する層が幾重にもある。
　それは、最奥から徐々に手前へと、見えない壁で辺りを徐々に仕切りつつ迫ってくる。

　その見えない層を構成するのは、人々の顔のみでなく、階段・扉口・壁・柱・画架など物体も含め、それらの全てが断続的示唆によって異なった層として幾重にも重なりながら、奥行きという、絵画にとって＜架空の軸＞を、着々と最終地点（鑑賞者）へと差し向け、また向かって来るのが面白い。
　しかしそれはまた、ただ単に一方通行な層という平面の羅列ではない。鏡という奥行き、また開け放たれた扉の奥手の世界という二つのトリックが、壁という平面に並べて仕組まれているからである。

　このトリックとはまた、二次的な空間の現出とともに、身体――此岸と彼岸の交換作用――の現出をも、担っているのである…。“画家というもの”の示唆、そしてまた“私たち鑑賞者”というものの本質…その示唆とともに、である。

　ここでは画家と、（奥手の鏡が教唆する処の）国王夫妻とが、事実上の《位置》と同時に《主-客》すらまったき逆転を遂げている。そしてその、まるでエポケーのように宙吊りにされた主体とは、本来の画家の（居たはずの）位置であり（送り・送られる）視線であるとともに、“鑑賞者自身”でもあるのだ。

　鑑賞者（私）の居るはずの場所……。それは巧みに、王女マルガリタの＜顔の向きと視線の＞間の“ズレ”、また鏡像としての国王夫妻相互の、適度にぼかされた＜顔の向きと視線の＞暗示する位置の相違――この効果が私たちに与える視界の“幅”―― などにより、徐々にずらされつつ、それらの暗示と視線に導かれて、私たちの目は、結局はこの絵画空間をあちこち経巡ることになる。
　閉じたようで開かれ、開かれたようで閉じられた、冒険すべき空間。

　身体的志向性、志向的侵犯などという言葉がなるほどこれ以上ない位いに射程する場面である。「画家、ないし鑑賞者」は、――フェルメールのように巧みに、完璧にその存在の影が消されてしまうのとは逆に――このヴェラスケスに於ては“受肉”される。身体を与えられるのである。

フェルメールの室内画では、鑑賞者は、つねに徹底的に「意識されていない、見られるはずのない存在として」自己自身を――思いがけぬ傍観的侵犯者として、微かな罪の意識と共に――意識させられたが、この同じ傍観的侵犯者が、ベラスケスのラス・メニーナスでは登場人物の躯を借りて、存在させられる。その躯は、視線・鏡像・状況などの暗示によって与えられる。
　絵の中に収まってはいるが、本来此処に居るはずだった画家ベラスケス、モデルである王女マルガリタに、こうして見られているはずの描き手ベラスケスの、もうひとりの分身、身体として、私たち鑑賞者は図らずも立たされる。
　そしてまた、“不意の傍観者なまま、この場面を凝視する闖入者”の役割さえも――画面中央、最も奥手で階段に片足を掛けたままの紳士の立場を――私たちは交換させられる。同時に、これも王女マルガリタに見られている、鏡の中の国王夫妻の身体としても、暴かれる。この空間ぢゅうでもっとも遠い隔たりを飛び越え、私たちは鑑賞者はこれらの登場人物たちと、身体と役割とを交換するのだ。

　不意の「傍観的闖入者」――その意味するところのもの。交換作用…。
　この“役割”の交換については、色々と考えさせられる…。

　ちょうど画面中央、開いた扉の向こう側から＜不意に＞立ち止まったまま画布の様子を丹念に見ている紳士と、私たち鑑賞者はたしかに同様である。が、似てはいながら対照的でもある。

（何故ならこの彼と私たちの立場の交換は相互ではなく、一方的である。彼の立場・その立つ位置と視線とが、画中のヴェラスケスの向かうカンヴァスに当たって＊「くの字」にこちらへと跳ね返ってくる交換作用とは、それである。私たちの視線は逆に、画中の紳士を射ることは永遠にない…彼は暗示と視線をもっぱら＜与える＞側であり、この画に於ていっとう自由なのだ。
　傍観者としての自由。紳士の、予め保障された自由…。それは、同じ傍観者でありながら、はからずも自己自身に出合わされ、そのまま第二のモデルのように鏡の中の形像として凍結させられた、国王夫妻の以上のものである。
　これこそは此岸＝私たち鑑賞者の位置からもっとも隔たった所に置かれた、彼の特権であろう――それは芸術の巧妙なトリックの世界である）。

＊くの字…ヴェラスケスは、この折れ曲がる視線の作用を、人々の「配置」と「向き」に添わせることにより、この効果をあげることに成功している。
またこの空間を逆に通る光線の作用――「陽の光」は、ちょうど「視線」のそれと対照的であることが、この絵画空間にバランスを与えているように見える。くの字と逆くの字。それらは互いに調和を以て画面を横断し定立させる。が他方、画面を縦断するVの字がある。それは王女マルガリタの視線のすべりに付き添われつつ、鏡の中の国王夫妻と、階段に立ち止まる紳士とから同時に発せられ、私たちという「こちら側」の中心に届く。

　傍観的闖入者――すなわち私たち鑑賞者の立つ“位置”とは、この17C半ばの絵画空間の、内側でもあり、外側でもある（＜下を向いた＞＜犬＞が、王女と（私）の間に介在しているのが興味深い笑）。
そしてその辺境的立場とは、イーゼルの背面に阻まれて、けしてその描かれた絵画を覗けないはずの地点にありながら、事実上この絵画空間に直面し、視線をあちこちに冒険させ、反芻するという、奇妙な特権状態を強いられた境界線なのでもある。

　画家ベラスケスの表情も一興である。本来、モデルの王女を見つめつつ、見られてもいるはずの位置にあり、立場であり、存在であるにも拘わらず、実際？には画面の中に何の視線も感じぬ者としてあっけらかんと登場し、<<人>>の視線から殆ど解放されて居り、勿論画面ぢゅうを飛び交う登場人物たちの視線にも無頓着である。その無頓着さは、＜己を知る＞以前の、否、直前の、私たち鑑賞者のそれに相応しい。
まったく以て、それは「傍観的不意の闖入者」――扉のむこうに立ち止まる紳士、まして、遠い鏡像の中に凍った自己自身をも発見する国王夫妻――以前の頓着なさであり、罪のなさである。

　そして同時にそれは、女官達――この空間にとっての他者になど、一向に気付く風もなく王女を見守り世話する若い娘達や、彼らを見ている「こちら側」という、もうひとつの世界に、気付くとも気付かぬとも言った微妙な風でありながら、その視線はついにこちら側を射程することはなく“適度にぼかされ”て、架空の画布に描かれている（とされる）世界のほうに関心を吸い寄せられている恰好の人々の表情の、罪のなさと同等である。

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---挿入：追記---

　　2004年03月06日 (土)

世界史教科書のスペイン史、～フィリップ４世時代～の記述とともにみなに馴染まれてきた、ごくちいさな写真でのみ知られた、ラスメニーナス。
ここ数年私愛用の手軽な「西洋絵画の○百人」(美術手帖社)――それには西洋絵画の画家たちの代表作が1頁に３～４枚ずつの割合でカラー刷で載っている――にも、ヴェラスケス(1559-1660)バロック：生涯の殆どを国王フェリペ四世の宮廷画家として過ごす、という簡潔な説明書きが添えられている。
だが、いざこの絵画自身の構成力――適材適所に配置され・表現づけられた諸＜相貌＞と喚起体たち――に挑発されるままに、現象学的領野から触れなおさざるをえなくなったとき、そこにはみるみる思いがけない視座転覆と教唆の世界が展開しはじめた。

M-ポンティ言うところの「構成者として世界を構成しつつあるまさにその時に被構成者として構成される自己自身の身体を体験する」という、私たち相対者(人間)にとって免れがたい《世界(という)体験》様式、これを強烈にこの17C絵画によって示唆されると同時に、まさに志向的侵犯、という言葉をそのまま絵画空間に凝集した現象学的絵画ともいうべきものであることに愕いたものだった。

近くの知人に借りた蓮実重彦氏の文庫本“フーコー、ドゥルーズ、デリダ”の中の、フーコｰの項――「言葉と物」を読む――に就て氏が触れた中に、ラス・メニーナスの記述があった。それによるとフーコーは「言葉と物」の中で、「『すくなくとも直接姿を見せず、鏡のなかに見ることの出来るにすぎない画家のモデルである二人の人物が、疑いもなく、スペイン国王フェリペ四世と王妃マリアーナだ』」と(フーコーが)洩しそうになり、思いとどまっている」としている。
つまり画家のモデルは本来国王夫妻であったわけであり、画家の分身として絵画空間の一部に登場しているヴェラスケス氏の前に圧倒的に架けられた、私たちに背を向けたカンヴァスに描かれているのは、鏡に写った国王夫妻そのものだ、ということになる。フーコー自身に就てはまだ、「哲学の舞台」と、他の書物で引用されていたと思われる「監獄の誕生」のごく一部しか読んでいないので、蓮実氏のこの本から「言葉と物」に関する記述を引用するが、氏はこう記している。
「奥の壁の中央にかかった鏡の中には、モデルとなった人物の像が反映している。そして、鏡にその人物いがいの誰ひとり、またなにひとつ反映していないが故に、しかも、画面に表象されている人物たちの視線が凝視しているものこそがほかならぬ鏡に反映している像の本体だという理由で、可視と不可視の劇を操作するものこそが、「最高度に表象されているあの極点」としての鏡であることは明瞭だろう」と。
またこうも触れる。「フーコー自身もこんなふうに口にしている。『鏡こそ、絵の中に表象された空間とその表象としての本性とを同時にゆさぶる、可視性の換位を保証するものにほかならぬ。それは、絵の一部でありながら、二重の意味でとうぜん不可視であるものを、画面の中央に見せてくれるのだ』」

一年ほど前にラス・メニーナスを記した自分の記述に、鏡に写った国王夫妻に就て触れた記憶、したがってまた、我々鑑賞者と「立場」の交換をしうるものとしての、国王夫妻に就て触れた記憶はあったものの、これほど突っ込んだ覚えがない気がしたので読み直してみたところ(雑記帳MENU2：2003'3/30付)、触れてはいたが、不十分であることに気づくとともに――私はわれわれ鑑賞者（若しくは画家）との間に、構成者=被-構成者の交換関係を結ぶもの(のひとつ)として、さらに、絵画空間の浮遊体である我々の視線、すなわち鑑賞者という不可視的存在の、衝撃的「受肉体」として、国王夫妻の鏡像に触れてはいたものの、最終的に国王夫妻こそが絵のモデルであったこと、したがって画中の背を向けたカンバスに描かれていたであろうものは、二人の肖像画であっただろうこと、迄に言及していない――、その画家の施した奸計に就てのより明確な開示を私に阻ませていたところの、私自身の先入見と、その先入見の形成根拠――私自身のこの絵画空間の捉え方、そこでの幾つかの現象学的喚起体への重点の置き方の、私とフーコーとの差異――等々、に就てもあらためて追求してみると、案外面白い解釈学的再理解が出来るような気もしたので、追記してみることにした。

当時のことを出来るだけよく想い出しながら記していくと、
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まず真っ先に私を捉えたのは、もっとも遠景――絵画空間にとっての、いわば彼岸――のじつに示唆にみちた画面の二分割だった。当然その構図性から、発作的に私は、これら並んだ二つを同格ととらえた。(左側は鏡像としての国王夫妻、右側は不意の闖入者たる黒い紳士)
それは、殆どモデルとしての自己意識か、鏡を前にポーズをとるに等しい王女マルガリタの顔の向きと視線のズレの効果から、我々鑑賞者の視線のアクセントが相応に二分極されることからも裏付けられる。
が、観ているうちに右側、すなわち開け放たれた扉から、――(おそらくは)しばらくの間じっと――立ち止まったままカンバスの出来映えを伺う紳士のほうに(その部分の象徴的な時間的停止の明るさと、紳士の様子の不躾さとから、またそれらが暗示するであろうところのものによって)、より惹きつけられていった。
(私にとって、左側の表徴体＝国王夫妻の鏡像が、まるで同じ壁の、もっと上方に掛かった二つの画と同様に、この絵画空間に――国王夫妻の身体として――‘受肉’されるとともに壁の中に吸収されていく暗喩とも捉えられなくもなかったのとは、対照的に。)
この理由に就ては後に記す。

それともうひとつ、まず私の先入見をあっという間に形成した要因は、なによりこの部屋の薄暗く雑然とした光景だった。
実際、ヴェラスケス自身の巧妙なる演出によって、いみじくもこの画題が「侍女たち」とされているように、見た瞬間、ここは侍女たちの部屋と思い込んだ。もしかりに、この絵の「真の」モデルが国王夫妻であることを予め知っていたなら、普段夫妻たち自身の過ごしている豪華な部屋でではなく、シャンデリアも下がっておらず、開け放たれた扉のようすもけして立派でないこのような薄暗い雑然とした場所で、あえて公式の肖像画など描かせるはずはない、などと思ったところで、否、ではここは画家自身の制作部屋なのではないか――見渡せばこの暗い部屋の中、最も奥手以外の壁のあちこちにも、画のようなものが掛かっている――と、とろい私でもさすがに頭を切り換えることも出来たであろう。

もうひとつの先入見のもといは、なにより画中の人物たちの、謂わば「虚勢された顔」だった。
これらに就て、或る意図を感じつつも、これこそは(彼女たちからは、直接的には不可侵な領域である)不意の闖入者に対する、また我々の代りに本来ここに立っているはずである制作中の画家に対する、視線の拡散さなのだと理解した――つまり、見られていることを殆ど意識しない人物たちの、‘此岸’(絵画空間の＜手前＞)に対する無関心さと、「本来在って不思議はないもの」に対し表す自然さなのだ、と思い込んだ。
(当時の私が想定したものは、“画家”、一時的に訪れた国王夫妻、――かもしくは巨きな鏡=人々の視線を凝集しかつ拡散する媒介者、――である。その鏡が、ヴェラスケスの視線の代替役として、あくまでヴェラスケスの頭の中だけに存在していた架空の鏡か、実際実験的に据えられたものと考えたかは、今となっては曖昧である――)、

じっさい彼女たちの相貌は、――上記引用文で蓮実氏が言うように、――‘画面に表象されている人物たちの視線が(実はここに本当に在りつづけたもの、すなわち国王夫妻を)「凝視して」いる’とみえるどころか、むしろ(在るべきものに対して)虚勢され拡散さえしているのである。

＜虚勢された相貌たち＞の中でもっとも不躾なのは、鏡のトリックからもっともかけ離れた存在である、あの黒い紳士である。彼の様子は、あんなに大きく開け放たれた扉のむこうで、空なる停止状態をじっとむさぼりつづけ、「此岸」を意識することからももっとも解放されており、画家ベラスケス(画中の一人物としての)の背中をすら自分が取り込みつつ構成しうるという、いっとう自由な場にいる人物にふさわしく、一切に捕らわれていないもの、特権状態の象徴のように思えた。だがもし、絵画のモデルが尊敬すべき国王夫妻であったとしても、つまりは彼の対岸にいるのがモデル状態を強いられた国王夫妻であるとしても、彼はいったいあのように不躾なほど無防備な特権状態を保持できるのだろうか...それは正直――微妙なものではあるが――未だに、出来れば私自身がヴェラスケスに問いたい所ではある。

[注)もし、この疑問を首尾よく埋める理由を見出すとしたら、この紳士が国王夫妻に極めて親しいか、彼自身非常に権威のある人物、ということであろう]

が、こちらのほうはともかくとして、絵画空間の中間地帯に目をやると、画中人物たちの表情の不思議さに、容易に目が止まる(画の出来映え如何に気を奪われるあまり緊張感からほとんどすっかり解き放たれたヴェラスケスの分身を含め)。

侍女たちの表情――。それはちょうど、鑑賞者の立つ場所に、部屋全体を映し出すおおきな鏡が据えられているが、それにとらわれることなく王女の世話をして過ごしている人物たちの風景、とでも言うような、或る種の‘奇妙な自然さ’を施されて、絵画空間に配置されている。それらはたしかに、(鏡のように)‘殆ど’透明なる-媒介者-を巧みに喚起しはする。が当時の私にとって、彼女らの表情に浮かぶその‘映し出すもの'の存在の影、とは、＜それが存在すること＞の自然さゆえに、意識するような意識しないような、が結局のところ差し障りのない、透明で不透明な媒介者、ともいうべきものであって、画家はそうした適度な媒介者をこの絵画空間と我々の眼の間に置いているかのようにみえる、そういう奇妙な印象なのだった。
が、それを私は、この幼い王女マルガリータ――*彼女だけは充分この媒介者を意識している
(*…それは、同時代に描かれたマルガリタひとりの肖像画と殆ど同等かそれ以上の停止性と待機性とを帯びて見える http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazq48.htm ) ――を中心に取り巻いている、が取り巻く自分たち自身もがモデルにされている、ということをあまり意識していない、すなわち本来ここに立っているはずの画家の視線とカンバス(自分たちも構成要素として参与しつつある、永遠の絵画空間)、と言うものに対する、比較的素直で無防備な意識状態というふうに捉えた。

[注)ただこの場合、あの画中の画家の前にはだかる巨きなカンバスに、現在進行形で描かれていたはずのものも、あの部屋の全体：マルガリタを含めた侍女たち自身、であったことになるので、彼女ら自身もその画の経過を見(知っ)ていたことにはなるのであるが。その為、それに対する少しの構えが、彼女たちの全体としての自由な振る舞いの中にも微かに映し出されているのか、という風に捉えられる。或いはまた、王女の様子を伺いに訪れた国王夫妻に対するそれという風に。だが、今となっては、実際モデルとしてそこに立ち続けている国王夫妻に対する遠慮を含んだ視線の拡散なのだと捉えるべきなのだろう。
彼女たちの相貌と視線とに見られる自然さ-不自然さの境界には、意味深いものがある。が当時の私にとっては、――ここに在るはずのものに対する――視線の「拡散」が、或る種の無関心さとして、より強く印象に残ったのだといえよう]

またもうひとつの先入見は、これも今となっては甚だ勉強不足としか言いようがないが、画中画家の手前にそびえるカンバスのあまりの巨きさのために、我々に背を向けたあのカンバスの向こう側に描かれつつあるものは、この部屋全体をそっくり映し出すほどのダイナミックな構図のものであって、それこそ我々及び本来の画家が＜こちら側＞から見たこの「ラス・メニーナス」と同じ規模の光景を、別の視角から捉えている絵画だというふうに、何となく思い込んでいた気もするのである。
国王夫妻の全身像を描くにしろ、見たところ縦3m50cmはあるように見える巨きなカンバスに描き込むなどという発想を、私は持てないで居た。
だが、これまで殆ど注意してこなかった「カンバスの大きさ」という点でもう一度彼の多くの画をnet上にて振り返ると、フェリーぺ４世ひとりの肖像画でも231×131、馬に乗る王妃イザベッラなどには301×314を費やしていることなどからも、二人の全身像を描くのに3Mを優に越す大きさのカンバスを用意するのは、当時の宮廷画家としてはごく普通だったのかも知れない。
この点で私は、風景画や宗教画、戦闘情景などと同等かそれ以上にあてがわれる宮廷権力者の肖像画の途方もない大きさ、などに対し不勉強であった。

このような幾つかの先入見から、したがって遠景に映し出されている国王夫妻に就ても、――以前にもある程度は触れていたように――あの鏡像の主は、或いは幼い王女の前、すなわちちょうど我々(鑑賞者)の位置に、ほんとうに居たのではなかろうかとは、考えた。が、あくまで(王女の様子を見に来た)「不意の闖入者」として、登場すると考えたのであって、そもそも国王夫妻こそが真のモデルとしてあったのだ、という意味で捉えたのではなかった。だから‘こちら側’に存在しうる国王夫妻の存在とは、ちょうど「絵画空間」の反対側で、「こちら側」に最も無関心に存在し、図らずも現象学的シグナルを送る黒い紳士と同格に、だが或る意味では対照的に、やはりあくまで「不意の闖入者として」この部屋の様子を見にやって来たのであって、我々鑑賞者・黒い紳士と同様、ふと訪れたに過ぎぬ‘他所者なのである’。がしかし、黒い紳士と異なる点は、彼岸の世界に構える鏡の虜になったことにより、――自分たちの肖像画をヴェラスケスに描かせる時さながらに――あたかもそのままポーズをとるかのように凝結したのだ、と捉えた。
それはつまり言葉を換えれば、この絵画空間自身の奇妙な自由さとは逆に、その分この空間のトリックのとりこになって自分自身が被-構成者として捉えられてしまう我々鑑賞者の姿を、まえもって意味する、「表象」としての役割としても捉えることになった。

ひとくちに同じ「不意の闖入者」ではあっても、この絵画空間のなかで、ただひとりあの不躾な黒い紳士だけが、“絶対的な構成者として世界を構成するそのただ中ではからずも己自身が被-構成者であることを体験する”、というあの世界経験の凝結作用から、永遠に無縁であるのと対照的に、国王夫妻は皮肉なことに地上の特権者ではありながら、この巧みな絵画空間の中にあっては、我々相対者としての「凝結作用」を免れることはなかったのだ、と。
(ふと訪れたにしては、夫妻はポーズをとりすぎている、といった風情への解釈も、そのような文脈で捉えた)

もし、もう一歩考えを進めていれば、“不可視であるにもかかわらず鏡に映し出されている国王夫妻の意味”というものを、――この絵画空間にとって「我々鑑賞者」と同じ＜不意の闖入者＞として捉えたにしても、――我々がこの絵画空間に直面している限り、この画の前を立ち去らない限り、その間我々の肉体はずっと国王夫妻であり続けるのだ、ということに気づかなければならないはずである。勿論、己の肉体を忘れ、宙吊りの視線として画中を漂う時間は、右側の黒い紳士のような特権状態の自由を帯びてはいる。(その意味で我われ鑑賞者は彼岸で二分割された画面のどちら側でもあるのだ。)だが、忘れている間も此処に立ちつづけている以上、“我われの場所”――送る視線の主――は、ずっと＜国王夫妻＞でありつづけることを、‘この構図’の鑑賞者は免れないのである。(そしてこの位置とは、すなわち画中の画家に描かれるモデルの立つべき場なのである。)それがラス・メニーナスの極意であるといえる。

ところで、このようにもう一歩考えを進めた時、同時にこのようなことが浮上する。
こうして、画中人物となりすました画家の前に立ちはだかる、私たちに背を向けたおおきなカンバスの向こう側に描かれているのは、他ならぬ国王夫妻そのものだ、と自分自身で考えられた場合にも、――この場合、侍女たちは王女を連れてその面倒を見ながらも、モデルとして立ち並ぶ国王夫妻の前に、また厳粛なる?制作現場に、「お邪魔しに」来ている他所者ということになる――、彼女たちの雑然とした態度、そして相貌の‘適度な無関心さ’は私にとって合理的なものに見えただろうか。また画中のヴェラスケスと黒い紳士の、熱心さのあまりのあの不躾さにも………？色々考えさせられ、興味深いところである。

尚、画中カンバスに描かれていたということになる「国王夫妻の肖像画」を、幾つか見て回ったnet上美術館のVelazquez頁の中では、出会うことができなかった。がほんとうに描かれたものが、現存するかも知れない。
画家の頭の中だけでなく、また画中のあのカンヴァスのむこうに描かれていたはずのものというのみならず、ラス-メニーナス成立の前提条件となった国王夫妻の肖像画自身、実際、描かれたかも知れない。

この時描かれたとされる国王夫妻の肖像画をご存じの方、これだよ、とお知らせくだされば幸甚です。

---挿入：追記2---

　　2004年12月09日 (木)

「ラス・メニーナス」(参照)
http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazq18.htm

本年3月に、ヴェラスケスの「ラス・メニーナス」追記を記した際、最も帰結点として強調した点は、こういうことになった。
『結局、向こう側の壁にかかる鏡に投影している国王夫妻、すなわちそもそも絵のモデルであったところの国王夫妻、したがって絵中のヴェラスケスの前にはだかる、あの大カンバスにまさしく描かれていたはずの、国王夫妻、とは、このラス・メニーナスという絵画の前に現れ足を止めた時の、われわれ(鑑賞者)自身であること。そしてこの絵の前を離れぬ限り、われわれ(鑑賞者の立場・身体)は、国王夫妻でありつづける』というトリックに就てであった。

がその後、この面の強調により、もう一方の観点がどうもないがしろにされている気がしてならなくなり、気になっていた。

絵画に於る「構図」とは、そこに描かれるものの勢力関係の、謂わば全ての表徴であるし、表現するものの根幹である、と思われる。
ヴェラスケスは何故、この絵画空間をこれほど明確に、二極に区切ったのか。。。

タブローを二極に構成する、あの“向こう岸”の双つの象徴――鏡像としての国王夫妻、と不意の闖入者且つ不意の鑑賞者である黒い紳士。

先3月の私の結論では――その前のVelazquez記とは反対に――このうちの前者に、あまりにも力点が掛かりすぎて居はしないか。
ではあの紳士の存在はどうなるのか…。

そもそもこの絵に出会って最初に決定的に印象づけられた点――鑑賞者たる我々(という隠れた『存在』)と、その存在をあばくための黒い紳士。これらはともに「絵画にとっての＜不意の闖入者＞としての存在」たる鑑賞者というものを、否応なしに喚起する。――我々と紳士、という各の立場の異次元的「交換」作用を通して――

不意の闖入者・傍観者としての我。この存在の喚起と交換作用…それは、まるで鏡像の中の国王夫妻にも及ぶほどだ、とさえ私には思われた...国王夫妻は、不意の闖入者としてのおのれを、あの場で発見していたのではないだろうか…と。

だが、それはほんとうに錯覚なのか。。実際、不意の闖入者であり鑑賞者である、存在というものは、国王夫妻には及ばないのか。モデルであった国王夫妻は、この交換作用から全く超越的でありえただろうか。

前記に、この絵をこう記した。

「構成者として世界を構成しつつあるまさにその時に被構成者として構成される自己自身の身体を体験する(M=ポンティ)」という、私たち相対者(人間)にとって免れがたい《世界(という)体験》様式..

この世界体験=志向的侵犯、を、私たち鑑賞者と同様、(謂わば我々の化身でもある)国王夫妻も、あの時、共有しては居ないのか…。

この絵を見る限り、やはり「夫妻の鏡像」と「不意の傍観的闖入者たる紳士」は〈同格〉である。(面積からすれば、むしろ同格以上のものがあるが...)

紳士は、もっとも遠方の存在者である。彼は――描かれたその様子の、或る種の不躾さから――国王夫妻と親密な関係にあるものと思われる(一説には、お抱え宮廷画家ヴェラスケスの兄弟とされている)が、たしかにこのタブローの構成者のうち、もっとも遠くにいる。
むしろ彼のポジシオンのみが彼岸であるといってよい。
彼の位置と立場だけが、国王夫妻(まさしくモデルとしてあの場に立ち続け、あの無駄なほどに高い天井や奥行きあるアトリエぢゅうを収める視界を、静観する権利を有していた国王夫妻)、その立場を、唯一一気に侵犯し、逆転させうる位置にいる。
謂ってみれば、あの国王夫妻にして、「構成者として世界を構成しつつあるまさにその時に被構成者として構成される自己自身の身体を体験」させられるのである。

国王夫妻は、モデルとして立ちつくす己らの姿、場に於ける一構成者にすぎぬ(目には見えにくい)この身体、というものを、あの紳士の登場によって喚起させられたはずである。
この瞬間、モデルであり主役でありつづけた彼らの身体は、一気に客体化させられ、不意の傍観的闖入者としても受肉させられたはずであろう。
鏡像のなかの夫妻の様相が幾分か固まってみえるのも、それと無関係でもあるまい。。
この立場は、我われ鑑賞者とまったく対等であり、同時に共有するものある。

したがって、この絵の心憎いニュアンスにとむ包括的「主題」とは、
我々鑑賞者と国王夫妻の身体交換、であるとともに、
＜構成者=被構成者＞間の、あの世界体験である　といえそうだ

「ラス・メニーナス」、というこの絵画空間。ここに描かれた光景は、我々の見ているこの絵画空間であるとともに、まさしく国王夫妻が見ていた、世界空間そのものである。
画中のカンバスに描かれていたのは国王夫妻である、というダイナミックなトリックは、同時に、ラス・メニーナスというこの絵画空間が、そもそも「誰のもの」であったか――国王夫妻の目にした空間である！――ということも、同時に証している。

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　　2003年03月30日 (日)
＊フェルメールとヴェラスケスに於る比較――鑑賞者と鏡・窓（乃至額縁）の関係
（このような比較もあろうかと思い、図として記しておくことにした）

窓や、額縁、鏡、などといった存在が、フェルメール作品にもヴェラスケス作品にも示唆的な役割を持つものとして登場する。
それらは単独で配置される場合もあるし、並んで配置、もしくはほぼ同一次元に配置、される場合もある。

フェルメールの場合は、主に単独で登場し、配置されるのは「窓」である。
ヴェラスケスの場合、単独で登場・配置されるものとして印象的なのは、窓よりはむしろ「鏡」である（ヴィーナスの場合）

この際、
ヴェラスケスの鏡とフェルメールの鏡に、次のようなことが云える。

フェルメールはいつも、

窓―――モデル
＼鑑賞者／

という構図で、窓にモデルをそのまま直面させる。（絵画中の別の登場人物はともかう）鑑賞者は、つねにじかにこの間に割って入ることはなく、それ故に徹頭徹尾影の存在、絵画空間に対しては傍観者として、姿を隠したままに立ち会わされる。

他方ヴェラスケスの場合は、「ヴィナス」の場合（また、以下で触れるが「ラス・メニーナス」の場合も）
http://sunsite.sut.ac.jp/cgfa/velazque/p-velazq22.htm

　鏡
　｜（モデル）
鑑賞者

鑑賞者に、そのまま鏡を直面させ、モデルはその脇の媒介者や一種の喚起体=我々(鑑賞者の身体)の化身、のようなものであるところが、面白いし、ヴェラスケスらしい。

ここに、もうひとつの道具が配置される場合も同様である。

フェルメールの場合もヴェラスケスの場合も、「鏡」と「窓」（または「扉」など＜もうひとつの世界＞を示唆する道具）は、‘並んで’置かれることにより、その効果と役割とを発揮することがあった。

フェルメールの場合、「鏡や額縁」がつねに“モデルに対して”正面か・ほぼ正面であるのに対し、
ヴェラスケスの場合、これらはむしろ直接私たち“鑑賞者に対して”正面、乃至ほぼ正面であるところが興味深い。

ヴェラスケスでは「ラス・メニーナス」中、
「鏡」と「扉」（「扉」…それは半ば開けられた、もうひとつの世界としての存在として配置）とは、並んで置かれていた。

他方、
フェルメールの一部の作品中にある、
「窓」と「鏡」は時折、並んでいる。もしくは、ほぼ同一次元（もっとも奥まった層）に配置される。

フェルメールでは、
http://www.mystudios.com/vermeer/19/vermeer-woman-pearl-necklace.html
http://www.mystudios.com/vermeer/16/vermeer-woman-holding-balance.html
http://www.mystudios.com/vermeer/14/vermeer-music-lesson.html

窓	＿	＿	＿＿＿	＿	＿	モデル
鏡（or	＼				／
額縁）		＼		／
			（鑑賞者）

：

窓

＿

＿　鏡

......

：

＼

　モデル

：

＼

　｜

：

（鑑賞者）

ヴェラスケスでは、

	鏡（モ	デル）	扉（	モデル）
	＼		／
（モデル）		＼／	（モデル）
		鑑賞　者

となるのである。　　　
　　　
たしかにこの比較は、彼らの“主題”とその際の道具の扱いと配置、役割の持たせ方…etcetc.、それゆえ至当に帯びる構図性といったものを、それぞれ端的に示唆しているように思われる。

注1) ことにフェルメールの場合、窓・（半ば）開いた窓、などが、殆ど鏡と同じような効果をすでに持つ面が多くあると思われる。

１）閉じた窓：全き自己同一性＝鏡１
２）他者にむかって幾分か開きかけた窓≒鏡２　※（地図などが最も奥手の層にあったりする）
というような具合に想われる…

注２) 尚、ヴェラスケスの場合、「ヴィナス」に於る「鏡」がほぼ中央ながら、向きとしては斜めである。
「ヴィナス」に於るトリックは、本来画家の立つべき視座を、画家自身の気配を空無化したまま鑑賞者にあけわたした格好で、画家のかわりに特権的闖入者である私たちが、絶対不可侵領域でにいるはずのモデルに見られる、というものであるが、ラス・メニーナスに於る「見られる者の交換」が４重構造になっている、――つまり扉を開け放って傍観する紳士、鏡に投影された国王夫妻(ともに、あちら側-彼岸とこちら側-此岸の交換)、また本来ここに立つべき画家自身、身体のない国王夫妻、また鑑賞者(絵によって存在を暴かれ視線としては絵画空間の中を侵入しうるも、身体として永遠に参与できぬ自由で不自由な鑑賞者)、の間で――のと較べれば、画家と鑑賞者との間で生じる、まだ単純で原初的なものである。また鏡に写っているのが、「ヴィーナス」ではモデルであるヴィーナス自身(此岸と彼岸の中間地帯――純粋「絵画空間」に在る者)に過ぎぬのに対し、「ラス・メニーナス」では国王夫妻(画内に受肉しないモデル；鏡像として示唆されるモデル；此岸であり彼岸)、という重層トリックであるという面からの比較でも、「ヴィーナス」に於るそれはまだまだ素朴な現象学である。
が、ヴィナスの「鏡」がほぼ中央ながら、向きとしては斜めである、この効果は、モデルと画家の位置づけ上当然のことながら、見方を変えればそのままおそらくちょうど「ラス・メニーナス」に於て、画家ヴェラスケスの姿と、私たち鑑賞者の間に立っていた“カンヴァスの背中”の役割と同様であって、画中のモデル乃至登場人物たちが＜視線＞をぶつける対象であるとともに、そこで「くの字」に曲がった彼らの視線を、私たち鑑賞者の視線と交換させる為の喚起体である。　(2004'03/06　一部施：訂正)

（▲2003'04/05:附記）

2003年03月31日 (月)

ディエゴ・ヴェラスケスの画を丹念に見て行くのは、ラス・メニナスがきっかけとなったつい昨日からのことで、まだよく解らないし、正直生まも見たことがない（スペイン王宮絵画展を見ておくべきだった）。
しかし、こうして時を追って彼の画を見ていくと、時間の流れとともに彼の芸術の多面性を、垣間見ることが出来る…。

カラヴァッジョ的明暗法から生じるスルバランなどと共通する、ことに静物に於る写実主義にはじまり、1630～40年代の比較的動性ゆたかな画風。ここから時を経る毎にダヴッド的?停止性のようなものが備わっていくのが解る。筆致にはある種の省略法のようなもの見受けられるにも拘わらず、である。

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Three Musicians, Gemaldegalerie, Berlin（年代不詳?）
http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazq52.htm
カラッチ（豆を食べる男）→カラヴァッジョ的。

An Old Woman Cooking Eggs, approx. 1618
http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazq39.htm
多分にカラヴァッジョ的。。。
がここにはすでにシャルダン的な静物に於る奥行の圧縮率が働く…。（これはカラヴァッジョ自身にも当てはまる）

Christ in the House of Martha & Mary, （年代不詳？たぶん１０年代後半ではないだろうか）
http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazq34.htm
オランダのアールスト的な徹底的写実主義が、物の描き方に見出されるが、それに比し人物のほうは、幾らか実在感を省略されている感があるのはおもしろい。静物に較べた時の人物描写のこの実在感のなさは、写実主義の未成熟というよりは寧ろ近代主義の先駈けだろう…。
ここにはカラヴァッジョ的明暗法から生じるスルバランなどと共通する静物に於る写実主義と、同時にシャルダンと近代絵画に共通の、奥行（ｚ軸）の圧殺も見出される気がする。
が、右手の断片はすでに17Cオランダ絵画が。

Joseph's Bloody Coat Brought to Jacob, 1630
http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazq28.htm
プッサン→‘カラヴァッジョ周辺画家’的人物描写とその動性…。
色彩はバロック（プサン～リュベンス）/新古典主義アングル・ダヴィッド

The Adoration of the Magi, 1619,
http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazqu3.htm
カラヴァッジョ的、でも微かにティエポロ的なものの予感が（？）。。

The Needlewoman, 1640
http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazq17.htm
ここには、フェルメール的＜没入＞――他者非介入が見出される。

The Coronation of the Virgin, 1641-44
http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazqu8.htm
ここにはムリーリョが。（動性、また色彩）
cf）ドラクロワ
cf2）↑リュベンス？？/ヨルダーンス；バロック

A Woman as a Sibyl, 1644-48
http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazq21.htm
ここにはロココの予兆。

The Feast of Bacchus (Los Borrachos), 1628-29
http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazq32.htm

Don Sebastian de Morra, 1645
http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazq51.htm
こうした庶民的粗野さ・伏在する動性、またことに後者の色彩の明度には、17c初期オランダ絵画（ことにフランス・ハルス、…だったかな）の人物画が彷彿する。
もしくは、バロックの名残？？

Juan de Pareja, 1650, oil on canvas
http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazq26.htm
ここには、はやくも写実主義の或る種の頂点がある。何故ならこれ以降（ヴェラスケス自身を含め）、写実主義は新古典主義的形式主義を帯びはじめるからだ。
他方、ロココやオランダ絵画は、すでに印象派にも通じる主観（主義）的動性を帯びてくる。
がこの絵には、未だ静性→動性の可変的両義性、瞬間の抽出におけるごく自然で適切なバランスがある。

そして昨日のラス・メニナスの中の、幾人かの人物や、同年のこうした王女の絵
The Infanta Margarita, 1656
http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazq48.htm
には、ダヴィッドを典型とする奇妙な新古典主義的「停止性」が、すでに伏在する。
（もっともこの宮廷風な凝結感は王女のドレスなど当時の形式的な文化からも生じるのであろうけれど）だが人物の、動きの瞬間・時間の断片がひとつの空間に奇妙に持続させられるかの強制力をともなった停止が、人物の姿勢の幾つかに見出されるのも事実である

The Medici Gardens in Rome, 1650
http://cgfa.sunsite.dk/velazque/p-velazq11.htm
これなどに見受けられる或る種の省略法は、
グァルディを典型とする１８世紀ヴェネチア派を想わせる！（或いは英自然主義ボニントンの海岸の絵）――ことに壁面、大地の描き方――。
が同時に樹木などの幾分かよどんだような暗い省略法には、すでにテオドア・ルッソーのようなバルビゾン派～英・仏ロマン派の予兆が混在してみえる…（そしてそれらは印象派に通じるだろう）。


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