雑記帳:Cahier7：シューマン：ダヴィッド同盟舞曲集・グランドソナタ――ポリーニ/バッハ――アファナシェフ,グールド,リヒテル

　+++Pollini'sSchumann――ダヴィッド同盟舞曲集/ピアノソナタ第３番+++

2003年02月07日 (金)

ユゲントアルバム――Album fur die JugentのCDは少ない。昔LP時代に、ワイセンベルグの弾いたユゲントアルバムを聞いていたが、CD化されたという話を耳にしない。
仕方がないのでユゲントアルバムについて語る際、Edlinaという女流ピアニストのを聞いていたが、丁寧な演奏ではあるけれども「子供のための」という‘家庭的でぬくもりのある’領域などというものをまる切り越え出た知性や特有の両義的精神性の反映としてのあの曲集の側面を、満たしてくれる演奏でない、と思われるため、いつもその点の消化不良の感覚を抱いていた。

ワイセンベルグのは、ひどく＜深みのある＞演奏、というのではなかったかも知れないが、シューマンの音楽、殊に晩年近い頃のそれらの持つ、或る種の緊張感や凍り付くような透明度というものは出ていた。
あの演奏はCD化されてよいと思うし、さもなければもっと続々と超一流のピアニストがこの曲集に手を着けるべきである。

ところで今日ようやくポリーニの「ダヴィッド同盟舞曲集」と「グランドソナタ」のカップリングCDが手に入った。このカップリングは非常に魅惑的で、他ならぬポリーニが演奏者である点を考えると、ほぼbestな選択肢である。
とはいえ、最初「ダヴィッド同盟舞曲集」のポリーニによる録音がないかと探しているばかりで――昔ドイツの何処だったかの音楽祭で彼の弾いたlive録音なるものをFMから拾った唯一の「ダヴィッド同盟」をwalkmanで聞いていて、これと同じ物か、もしくはポリーニによる同曲集のCD録音を探していたのである――、カップリングがまさかグランドソナタであるなどとは思ってもいなかった。
(恥ずかしい話、「管弦楽のない協奏曲」というのがグランドソナタ――ピアノソナタ第３番と同一であるのを知らなかった。)

今打ちながら聞きはじめている最中であるが、ホロヴィッツの異常に鋭く突き刺すような打鍵といったものが表徴する「シューマン的」側面はない代わりに、ポリーニ独特の病的なほど平らかで透明・明徹な音色と知性・神経が、よくシューマン自身のそれと相俟った表現と録音であり、またホロヴィッツのとはまた違う息苦しさであるが、狂おしいほどに次々とたたみかけるようなパッショナートな部分がよく表出しており、ほぼ満足できる。

ポリーニは「ダヴィッド」/「グランドS」、ともに初版本を用いており、ホロヴィッツの楽譜とはだいぶ違う箇所があるようだが、それぞれの選択がそれぞれの持ち味とシューマンから引き出すものの異常性の表現とに相応しており、それもまた面白い。

2003年02月08日 (土)

ポリーニはダヴィド同盟舞曲集・ピアノソナタ第３番(グランドソナタ)、ともに初版本を用いている。
ホロヴィッツなど多くのピアニストは改訂版を用いていた。
殊に違いの大きいのは、グランドソナタである。

私は両者とも楽譜を持っていないが、グ-ソナタに於る差異は著しいものがある。

端的なのは、第１楽章:19-2:23頃の(イ-イ-イ-イ-ロ-ハ-ロ-イ=主旋律:イ長調部)での分散和音である。重厚な和音、或いは付点を伴う行進曲風乃至特異な躍動にみちた和音を用いるのが多いが、こうした分散和音はおそらくシューマン自身としてもめずらしい形式である。
このような場面はこれまでに聞いてきたどの演奏にも――すなわち改訂版には――無かった。
またこれにより、この直後のダヴィド同盟的な部分との対照性がめだつのである。

次の同フレーズの再現19-4：53からは、シューマンならではの、(改訂版では聞き慣れた)付点同音連打の和音と変わり、謝肉祭や幻想曲などでもなじみの、リズミカルでややマーチ風の和音に代替されている。この後の開始主題へと戻るパッセージ――やや激情的な下降(19-6:45)でも、分散和音が用いられている。

こうした試みは、統一的でないといえば統一的でないが、シューマンの作曲当初の意図や、ふとアベッグ変奏曲などをも彷彿する程の‘みずみずしい情感’が、これらのめずらしい分散和音によってつたわりもする。

この後ニ長調に転調した同主題の再現部では、ふたたび分散和音――ニニニニホヘホニ(主旋律部：19-6:01)に代替される。

また、改訂版では第２楽章スケルツォとしてあった楽章が抜かれている。ここの気分はクライスレリアナにも近く、私の大好きな箇所なのであるが……。
この跳梁的暗部による作品総ての隠されたモティフへの予言が有ると無いとでは「第３楽章-クララ・ヴィークの主題による…」そのものの全体に於て持つ意味も変わってくると思うのだが…。
まぁスケルツォがあればこの作品はよりクライスレリアナに近く(クララの主題とそれ以降のすべてがクライスレリアナ的に響く)、無ければより幻想曲に近い(幻想曲風に響く)ともいえるだろう…。この削除は、出版会社の助言によるものらしい。これは、シューマン自身によって改訂版の際復活させられたとある。

2003年02月09日 (日)

昨日書き忘れたので補筆。

ところで昨日のポリーニ:「ピアノソナタ第３番(グランドソナタ)」のCD解説を読んでいたら、このように記してあった。

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#（当初シューマンはスケルツォ楽章ふたつを含む５楽章構成の気宇壮大な構想を抱いていた。これは全楽章がすべて短調というきわめて特殊な調性構造をもつもので……）

楽曲の真ん中に置かれたのは「クララ・ヴィークのアンダンティーノ」楽章。クララ作曲の主題による変奏曲で、５度音程を順次下降する主題旋律が優しい情感をたたえる。じつは各楽章ともすべてこの主題から派生している。

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つまり、先日（改訂版で言う処の）第３楽章=「クララの主題による変奏曲」部分は勿論、それ以外の全楽章、すなわちグランドソナタ全体がクララの主題から成っているのではないかとして推論したことが間違いではなかったらしい。

2003年02月10日 (月)

「ダヴッド同盟舞曲集」初版本について気付いたこと

グランドソナタと同じく楽譜を持っていない。そういう訳で未だ未消化なことしか言えないが、ポリーニの演奏を聞いてとりあえず思った事。

十数年前?ライブで聞いたポリーニの演奏とさほど変わってはいないように思う。勿論、第６,８,曲や、特に第16曲等は、アクサンをより協調的にけしかけて、躍動感や前進力の点で、より練られた、鋭い効果をあげている箇所も幾つかある。
16曲ではテンポそのものもややゆったりとし、平明さの変わりによりアクティブに全身を傾けた弾力とリズム変化が効いている。

音符のうえでライブとあきらかに違っているのは、第13曲である。(13-1:00/1:15)
主旋律=トハニホの、ニからホへ移る付点の有無である。
一回目・二回目の処理ではポリーニは付点を外して平明に弾いているが、同フレーズの３度目の繰り返し(13-2:20)では付点を付けてライブの折と同じように弾いている。これはシューマンによる故意の変化であろうか。

解説を読む限り、初版本と改訂版との差異は、表紙・作曲者名（イニシャル F/E からシューマン本人の名へ）、また演奏表示に於ける言葉重視から具体的な奏法指定への変化、などであって、音符そのものを改訂したと読める形跡はなさそうなのだが、これは楽譜の指定通りなのであるか、確かめてみたものである…。

15曲,17曲,18曲などは「幻想曲」のようなシューマンの知的情感の質などを端的に引き出すのに相応しいポリーニのよさが非常に出ている部分である。

ところで、シューマン:ダヴッド同盟/Pソナタ３番とともに、アファナシェフの平均律も購ったのである。今第一巻を聞きはじめている所であるが、明日からそれについて記せたらと思っている。


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