第弐話 Death Trap
与えられた任務はそう難しいものでもなかった。「この一帯を支配している通信施設に侵入しやつらが保管しているであろう遺跡、”PINK”を手に入れてくること」確かに今、あの施設は敵勢力内にあり堂々とMV/9で進入できる状態ではなかったが、中立地域内に機体を置いて直に侵入すれば良いだけのことである。 しかし今回のパートナーであるN5は今回の作戦に異論を唱えた。
「後数時間もすれば敵の勢力は撤退せざるえない状況になる。何も今侵入をはからなくても…」
「現在の基地の状況が状況だ。絶対的に今必要とは言い切れないが、そうそう失敗する可能性が大きいわけでもあるまい。手に入らないにしても向こうの状況を知ることは出来る。その上で次回の侵入を完璧なものにすることも可能だ。」
作戦内容事態の単純さを理解していたN5はDVの話を聞き納得したようでその後は反論もなく任務を承諾した。
格納庫には出撃を待つ/9が、黒色の機体にわずかに差し込む太陽光を反射させていた。コクピットハッチを開けシートに体を預ける。やっと慣れてきたこの感触。どちらかと言えば安いシートではあるがやはり自分の愛機とあってこのシートに座ると気分が落ち着く。横のモニターを見るとN5がハッチを開けた所だ。 何時もここに映るMTは現在連絡が取れない。彼の基地では通信機器が不調だと聞いたが、今回の任務が終ってしばらくすればきっと彼は私の基地へ訪ねに来るだろう。連絡が取れないからといって心配する事は無い。ふとそんな事が頭をよぎった。
起動キーを回すと聞き慣れたエンジン音が響き、コクピットを軽く振動させる。最初は新型機特有の小さなエンジン音に不安を感じたが慣れてしまえば長所であることがはっきりわかる。任務遂行に大きなエンジン音は必要無いのだ。だが彼は時々MV1のエンジン音を思い出してはあれはあれで快感だったのかもしれない、そう思うことがある。
長い通路を越えゲートに向かう。慣れた手つきでカード認識を終えゲートチェックを済ませる。外部の太陽光がまぶしい。
「Mirage-Vok TYPE /9 発進します」
低いエンジン音と共に機体は中継基地を出発する。周辺まで敵勢力が手を伸ばしているだけあってこの中継基地を利用する機体も多い。まるで博覧会の様だ。それとなく各機体にチェックを入れながら目的地までのコースに機体を乗せる。
「この先を9時方向に折れよう。中立地域だが問題は無いだろう」
コースを変更し北に折れる。しばらく行くと民間人が増えてきた。しかし彼らにとってもこんなことは日常茶飯事であり、特にこちらを気にするものもいない。時折機体のエンジン音に対して羨望とも軽蔑とも区別をつけられないような顔で老人が眺めているくらいだ。
N5が封鎖地域にチェックを入れながら進行コースの指示を出す。ここら辺の地域はDVよりもN5の方が詳しいのだ。
「このルートを直進しよう。うまくすれば機体を施設に潜り込ませる事が出来るかもしれない」
更に民間人が増えてくる。画面に映る安全進行領域は確実に狭くなってゆく。しかし私にとってそれはさして問題であることとは思わなかった。しかし、直後、建物をクランク状に避けた時それは起こった。
ゴウ!
鈍い衝撃音と振動が機体を襲った。それは明らかに機体にダメージを受けた証であった。
「嘘だろ?!」
進行方向に敵機がいないことは確認したはずだ。しかし現に機体はダメージを受けた。致命傷ではないにしても決して軽くは無いダメージだ。3ヶ月前の出来事がDVの記憶の中で鮮明にリプレイされた。
N5素早く状況を確認する。
「横っ腹をやられた!コーティングアーマーが完全にやられてる!2次装甲板まで露出してる!」
DVの状況認知不足である。民間人の人込みがあったからこそその中に紛れこんでいた全長68cm程度の砲には気が付かなかったのである。しかしこの時のDVはそんな事は知る由も無かった。
その音に何人もの民間人が振り向いたであろうが彼らにそんな事を気にしている余裕は無かった。 DVは焦った。あまりにも前回の事件からの間隔が短いのだ。その上大破した機体の代えとして入手したのが今回の/9だ。個人運営をしているDVにとって機体の破損は絶対に起こしてはならないことだったのである。
「…作戦中断、任務を保留し帰還する…」
DVがそう決断するのにさほど時間はかからなかった。彼の置かれた環境を重々承知しているN5も黙ってうなずいた。
緊急的に立ち寄ったN5駐留所でDVは破損した愛機に目をやった。機体の内部に被害は全く無かった。しかし装甲板の被害は予想以上に大きかった。コーティングアーマーは完全にその効力を失い、1次装甲の白い色が各所に見受けられる。直撃を受けたと思われる部分には既に1時装甲の姿は全く無く剥がれ落ち、2次装甲がその銀色の地肌を露出されていた。2次装甲は期待の強度を保つ為の装甲であり、外部腐食に非常に弱い。1週間ほっておいたものなら腐食が開始されるであろう事は想像に易い。 そしてなにより期待側面は直撃個所周辺から完全に変形していたのである。
「予算が下りるだろうか…」
DVはつぶやいた。今回の機体購入でさえ現在の基地内予算に大きな打撃を加えたと言うのに更にここで出費が重なったのである。基地内の財政には限界が見え始めている。 基地内で使用出来る高級ソフトを入手できたはずのDVだったが、その帰還の足取りは決して軽いものではなかった。
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