豊島大橋

自転車キャンプツーリング記

夏の瀬戸内。とびしま海道と小豆島

2017年8月11〜15日

日記

8/11(金・祝) 一に伊勢志摩二に紀州、三四がなくても山陽路

今年のお盆は6連休と少なめ。恒例の自転車キャンプツーリングはそのうち5日間を使うことにする。男鹿半島・岩手山・早池峰山あたりが有力候補だったが、東北地方はは天気予報が雨マーク。じゃあ紀伊または瀬戸内あたりってことで、「関西」と「中国・四国」両方のツーリングマップルを持って西へ18きっぷ輪行の旅を開始した。中央西線の列車内で時刻表を含め三冊と睨めっこし、伊勢志摩に決定。ローカル盲腸線の名松線に乗ったり紀伊半島一番の名所「渡鹿野島」を巡ったりしたら、フェリーで豊橋に渡ってのんほいパークでけものフレンズだ!

ところが名古屋駅で関西本線ホームに移動したら、まさかのポイント故障で運行停止中。近鉄で振替輸送してるらしいが、遠い近鉄ホームまで大荷物で歩いて行ける気がしない。18きっぷで振替利用できるか知らんし…やーめた。東海道本線のホームに戻り、さらに西へ向かう。岐阜から温見峠は?…雨っぽいな。そうだ、阪和線・紀勢本線を乗り継いで御坊をスタートとし、プラネタリウムに寄りつつ高野山を目指してみよう。

ところが乗り換えの大阪駅は乗降が激しく、輪行袋の扱いがためらわれた。そのまま新快速で乗り過ごしてしまう。山陽本線の姫路、相生、岡山で乗り継ぎ、四国に渡って丸亀城や祖谷渓を巡ろう。
ところが乗り換えの岡山駅は乗降が激しく(略)。単に、自分で物事を決めるという大人として当たり前のことが出来ない状態に陥っているのだ。いっそこのまま、どこまでも西へ揺られたい。しかし自炊の時間を確保しないと、持参した米を減らせない。それだけはキチンとしたい。

三原駅前

という訳で瀬戸の日が暮れるころ、広島県の三原駅に降り立つ。自転車を組み立て、ジャスコで買い出し。やっさ祭りとやらで駅周辺は賑わいすぎ、少し外れにある公園を見つけてテントを設営する。山に囲まれた松本より空が広く、さそり座が大きく見える。行き当たりばったり、極めてアバウトな旅の方向性がようやく決まりそうだ。

最大の目的は「自分の時の流れを取り戻す」ことだから、今回はスマホを自宅に置いて完全にネットを遮断した。そう、この開放感! 私はこれを知る最後の世代なのかも知れないな。

8/12() うつくしまとびしま

三原市内の公園で迎えた朝。ここまで西へ来てしまえば、あこがれの「とびしま海道」も視野に入る。その東端、岡村島へはフェリーで大崎上島を経由するルートもあるが、かつてサイクリング(2006年)ジョギング(2010年)で「しまなみ海道」を旅していながらスルーしていた大山祇(おおやまずみ)神社も宿題である。忠海(ただのうみ)港から大三島に渡ることにした。

竹原の古い町並み

自転車に家財道具のパッキング完了。さあ忠海港から朝イチのフェリーで…いや思い付きで一本遅らせ、内陸の県道75号を西へ急行する。ツーリング的にはマイナーな道だが、なかなか良い感じ。竹原市に入り、町並み保存地区を散策。小学生の宿題インタビューを受けたぞ。なぜこんな、観光客が絶望的に少ない時間帯にやるかね。

そして駅へ向かう「あいふる通り」(サラ金じゃねえよ)は、今でもアニメ「たまゆら」推しが凄い。ぽってちゃんを始め各登場人物の飛び出し坊やが多数、ももねこ様も石像やタクシーになっている。聖地巡礼をするならもうちょっと予習しておけば良かった。4年前に第二期を観てOP・ED曲はお気に入りだけど、背景の記憶は薄れている。竹原港にも等身大ポップやグッズ販売が。

大久野島を出航

「ぽってぽって、ぽってクラブ♪ 誰にも会わずにご契約〜」と長野県ローカルCM「ポッケクラブ」の替え歌を口ずさみながら東へ戻り、やっと忠海港に到着。超ローカル航路と思いきや、浮き輪を抱えたファミリーが長蛇の列。まさかの次便待ち?…チャリだし車列のドサクサに紛れて乗船しちゃう。ほとんどの乗客が途中経由の大久野島目当てで、うさぎの島として大人気らしい。やたら背の高い送電鉄塔(後で調べたら日本一だった)や、毒ガス工場も興味を惹くが、また今度。

大山祇神社

愛媛県大三島の盛港は閑散とした雰囲気。下船したら県道51号を西回りで、小さな峠も越えつつ宮浦へ。かつて島の玄関として賑わった港に定期航路はなく、街は寂れている。しかし大山祇神社はさすがにクルマ&オートバイで大賑わい。大楠が見所。ヘルメット用のお守りを入手したので、こんどこれを付けて美鈴湖畔の大山祇神社にもお参りに行こう。三村峠を越えて島の東側、多々羅大橋あたりは「ろんぐらいだぁす!」の聖地。しまなみ海道の大動脈として、ロードバイクやレンタサイクルがひっきりなしに行き交う。

宗方港

その道と別れ、南岸路はまた静かなサイクリング。左手に海・島・橋梁群、右手にミカン畑。「みかん風味の優しさで〜アソーレ♪」などと口ずさみながら宗方港に到着。今度こそ超ローカル航路の佇まいだが、お盆休みだし待合サイクルラックがいっぱいになるくらいの利用客がある。やや遅れてやって来たフェリーは、慌ただしく西へ向け出航。もうすっかり当たり前の旅情。島から島へ渡る一期一会の片道旅。島々と海は当たり前にそこにある。穏やかな時間、風が気持ち良い。

岡村島に到着。手持ちのツーリングマップルが11年前の、「とびしま海道」が完成してない頃のものなので、現地で入手する地図が頼りだ。港町に開いてる店は見当たらず、ともかくまずはナガタニ展望台へ。フル装備の自転車ではキツすぎる激坂の果てに、展望台は立派だが景色は想像通りのレベル。来島海峡大橋も船から良く見えてたしな。さて、西へ走ろう。

岡村大橋

安芸灘諸島連絡架橋なんてたいそうな正式名称もあるが、実態は長閑な広域農道。「岡村大橋」が県境で、ここから広島県呉市だ。続く「中の瀬戸大橋」「平羅橋」で大崎下島に渡る。道の駅に寄るが買い出し向けではない。遠回りだが南岸へ、御手洗(みたらい)の古い街並みにも迷い込んでみる。芸妓が百人いたとかいなかったとか。豊島(とよしま)に渡る「豊浜大橋」は、しまなみ海道には無いタイプのトラス橋。夕方5時に気温は34℃を指す。昼間どんだけ暑かったんだ。ようやく小さな商店を見付け、菓子パンを買い食い。

恋ヶ浜キャンプ場

現とびしま海道で最後(2008年)に架かった「豊島大橋」で上蒲刈島(かみかまがりじま)に渡る。トンネルを抜けた所の恋ヶ浜にキャンプ場があると知り、行ってみる。僕「受付はこちらですか?」管理人「予約はしてあります?」「いえ」「(あちゃー…)…朝早くに出ますか」「6時には出ます」「それなら、どうぞ」お、無料かラッキー。オートキャンパーがうるさくても、襲われることなく朝を迎えられるであろう安心感。近くの温泉「やすらぎの館」で風呂、そして夕食が済んだら星を見て寝よか。

竹原港 来島海峡大橋 重要伝統的建造物群保存地区の御手洗
とびしま海道map
8/13() 四十二のひとりみ
安芸灘大橋

今日も良い天気。約束通り6時にはキャンプ場をずらかり、「蒲刈大橋」を渡って下蒲刈島へ。石畳道は風情あるけどスピードは出せない。最後の橋は「安芸灘大橋」。輝く朝日を浴びつつ、本州に上陸。さよならとびしま海道。しまなみ海道に比べれば地味だけど、これはこれで旅情。

呉港の大和造船船渠あたり

ここまで来たなら呉の街も寄って行きましょ。広の直線路やトンネルを抜け、高台から港を目指す。艦これ以前に、かつて「提督の決断」にハマっていたので圧倒的母港感ある。哀愁のあるBGMがずっと脳内を流れる。ありゃ、この戦艦大和モニュメント、19年前にもサイクリングで寄ったわ。今は言わずと知れた「この世界の片隅に」の聖地でもあるが、竹原同様ここも予習しないで来てしまった。あのシーンってこの辺だっけな…眼下に大型造船所を望む。史料館とかは外から見るだけ。戦争の悲惨さ云々より、戦艦大和や海上自衛隊の勇壮さが観光資源という印象の街だ。俺はどっちでもいいけど。

早くも今日のサイクリングはほぼ終わり東へ輪行。初めてJR呉線に乗り、広駅で末期色105系2両ワンマンに乗り継ぎ。先頭車両の一番前でしか下車出来ないことを知らずに、大慌てのすえ次の駅まで乗ってしまう客が複数あり。1時間に一本もない路線でかわいそうだが、これが國鐵廣嶋クオリティ。海の色も山の姿も、昨日に続く車窓風景。

井島の香川県側

三原、岡山、茶屋町で乗り換えこれも初めての宇野線、ワンマン列車。ICOCAで下車出来ないことを知らずに、時間をかけて証明書を発行してもらう客が複数あり。ウテシかわいそうに、どんどん遅れるがまぁ急ぐ旅じゃない。かつて宇高連絡船で栄えたという岡山県宇野港で自転車を組み立て、フェリーをゆっくり待つ。やがて、とびしまあたりに比べれば大型な「てしま丸」が東へ出航。右手、鉱工業が盛んな直島も見応えあるが、目を引いたのは左手の井島。死の島ともいうべき禿島の尾根に送電線が走る。群馬の小串鉱山跡と同様、冒険心をそそられる。(後で調べたら大きな山火事があったらしく、また航路からは見えない谷にちゃんと集落は存在している。)

小豆島土庄、平和の群像

体感38℃はありそうな猛暑だけど、クーラーの効いた客室より展望デッキで嬉々として写真を撮り回る。フェリーは途中、豊島(てしま)の二箇所に寄港する。かつて産廃の島として悪名をほしいいままにしていた豊島だが、今は直島と共に芸術観光で再生している。右手に高松市街や屋島を遠望しつつ、香川県小豆島の土庄(とのしょう)港に到着。二十四の瞳の銅像「平和の群像」がある。この世界の片隅にの流れでこれもアニメ化してくれないかな。浜辺の歌といえばこの映画だ。せっかくだから小豆島産100%のエクストラヴァージンオリーブオイルを買っていこう。45.5gで1,200円の瓶、これが精一杯。

世界一狭い海峡を渡り、大型スーパーやコンビニもある街を抜けて南岸を東へ、ふるさと村オートキャンプ場に行ってみる。「今日はもういっぱいだよ」…ラッキー、その方が言い訳が立つ。道の駅にある公園でまたゲリラ気味にキャンプ。飯は麻婆ちくわ。北十字星からサソリの尻尾にかけて雲の筋のようなもの、あれが天の川だろうか。まどろむ頃、やっぱりやって来る花火ファミリー。幸せそう、幸せそう。涙がでるのは、さっき虫除けスプレーを目に入れてしまったせいだ。

8/14(月) 看過できない寒霞渓
小豆島オリーブ公園

大峠という小さな峠を越えると、たくさんの実がなっているオリーブ公園がある。レベッカのオリーブが脳内をぐるぐる流れる。「毎日がキャンプしてるみたいで♪」…それより菅野よう子のOLIVE WINDEの方が長閑な雰囲気出るか。昔乗ってたランドナーがオリーブ色だったけど、今何処にあるのだろう。

草壁港から小豆島ブルーラインを北上。序盤、内海(うちのみ)ダムからして何か良い感じ。21年前のサイクリング部合宿では雨で断念した寒霞渓に、ようやく登りに来ることができた。漫画「サイクル野郎」の聖地でもある。イメージに反して坂はゆるく、エンジンブルブル絶好調。クルマがあまりやって来ない時間帯、自転車キャンプツーリングの父娘を追い抜き、道は尾根を東に巻いて北側へ。

星ヶ城山西峰から

分岐をもうちょっと登って、駐車場から遊歩道を10分も登れば瀬戸内海最高峰、星ヶ城山816.6mを極める。城跡の遺構も残り、東峰からは大鳴門橋を遠望。そして西峰の岩場からは右に寒霞渓の断崖、眼下に草壁、海の向こうに高松の街。海と島が織りなす絶景をしばし堪能する。自分の足で登ってきたからこその感動は、忘れない。

自転車に戻ってロープウェイ山頂駅に寄ると、ファットバイクの人に会う。今日はダウンヒルだが、一昨年のマウンテンサイクリングin乗鞍にも出たって。あの土砂降りの時の! 今日は良い天気だね。第一展望台や四方台も周り、名残惜しく県道31号を北へ、大部港まで豪快に下りる。北岸を東へ向かうと砕石場地帯。これも島の一面と言えよう。入るつもりだった吉田温泉はまだ営業時間ではなく、福田港の食堂「梅本水産」でのんびりメシにした。ぶっかけうどんとミニ穴子丼セット。やっと瀬戸内らしいものを食う。あ、壁に新城幸也のサインがある。

小豆島map 男鹿島

フェリー出航、さよなら小豆島。右手に通り過ぎる家島諸島は、地形を変える程の砕石現場が凄い。西と東から削っている男鹿島(たんがしま)は、真ん中に旗でも立てて「倒したほうが負けー」ってやって欲しい。「瀬戸内海は多島美」と云うが、人々が生きる為にいろんな現実があるんだ。姫路城を遠望しつつ島巡りの船旅は終了。兵庫県に上陸して、暑いけれど無心で東へ急行する。国道250号→県道718号。

東経135度まで突っ走り、また来てしまった明石天文科学館。月曜だし閉まってるかと思ったが、夏休み特別営業で賑わっていた。プラネタリウム最終上映回に間に合い、現役日本最古のレトロな投影機「イエナさん」が映す優しい星空に吸い込まれる。特集は探査機カッシーニについて。間もなく土星の大気圏に突入させて、長年の使命を果たすそうだ。切ない。

また来るよ。「赤い目玉のサソリ♪」と宮沢賢治の星めぐりの歌を口ずさみつつ、さらに国道2号を東へ急行し神戸市須磨区へ。あてにしていた地図上の温泉マーク地点に何もなく、風呂難民化。垂水のスーパー銭湯で入っときゃ良かった。スマホがあればすぐに見つかるのだろうけど、公衆電話の電話帳や駅前地図を見て探し出すプロセスも楽しめばいいじゃない。スマホ所持によって得られるグルメ情報やレジャー情報は、それも経済だから否定はしないけど、自分には不要。それより糸が切れた凧のように、日常と切り離された旅に集中できるのが良い。置いてきて良かったと思う。

菊水温泉

長田区に菊水温泉という銭湯を見つけて、最後の汗を流す。ジェットバスにつかりながら今日あったことを順番に思い出していくと、記憶は泡と消えていく。

夜また公園でキャンプするが、ストーブ(コンロ)が壊れ、半煮え飯がマズい。もう、こういう旅は引退しろってことかな。それとも直るのかな。就寝は遅くなったが、小雨に気付きテントにフライシートをかぶせることが出来た。暑い・・・。

星ヶ城山東峰から 梅本水産 明石のイエナさん
8/15(火) 人間甲子園、夢幻の如くなり
甲子園

テントを叩く雨音。すぐそこにある鷹取駅から輪行でいいやと思いパッキングしたところで止んだので、もうちょっとだけ自転車で走ろう。神戸の街を東へ、国道28→2→43号と進む。また断続的に降りかかる雨。今日の高校野球、8時からは宮沢賢治のふるさと岩手県代表という注目試合なんだ。相手は長野県の松商だったっけ。芦屋を過ぎ西宮へ。甲子園球場の前がワイワイ賑わっていて「これは開催されるぞ!」とテンション最高潮になったのも束の間、本日の試合中止を告げるアナウンスを耳にする。

様々な理不尽を克服し勝ち抜いてきた球児たち、胸躍る吹奏楽のヒッティングマーチ、いつ打球がこっちへ飛んでくるか分からない緊張感、アルプススタンドの大歓声、ピッチピチのチアガール・・・全部消えちゃった。一生に一度は甲子園で高校野球を観たかった。まだ死ぬわけにはいかないのだ。

昨日までの4日間、夕立ひとつなく晴天猛暑に恵まれていたのが奇跡的だったんだ。もう一日粘る気力体力そして米も無いし、放心状態でJR東海道線の甲子園口に到着、ここまでにして輪行へ。ラッシュアワーを過ぎ快適な18きっぷ旅、尼崎から乗った新快速は草津止まりだったが、深い眠りに落ちて「お客さん、終点ですよ!」車掌に起こされる有り様。効きすぎのクーラーに気をつけながら米原、大垣と繋ぐ。豊橋行きの新快速に乗ってのんほいパークに行こうかと少し考えたが、やはり名古屋で中央西線に乗り換える。

泣いて許しを請うことさえ出来ない現実に、それでも帰りたいってほど、旅は充実していた。自宅で自棄ファンタを煽り続けるという選択肢もあったが、冷蔵庫を空にすることで追い込み、出発して良かった。しかしもうボロボロ過ぎるフロントバッグ、輪行袋、ストーブ等々、何とかして再び旅立つ日は来るのだろうか。

自分土産

雨のおかげで諏訪湖花火行きの客数は恐れていたほどでもなく、無事松本に到着。スマホやインターネッツがある自宅に戻る。これと言って重要な連絡事はなく、そこに私が生きていることの証明も無い。俺が居なくても世界は回ってる。お盆休みの残り一日はテントや洗濯物干しにあてよう。そしてしばらく、瀬戸内海かぶれになって情報収集するのだ。きっとまた、旅に出たくなる。

瀬戸内海map

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