2004年7月14日〜15日
映画『八甲田山』のDVDを買った。初見ではないが、もう一度観たくなったのだ。内容は、日露戦争を前に八甲田山で訓練中の陸軍約200人が凍死した、という史実を元にしたもの。ひたすら寒い映画だが、どういうわけか男のロマン心を刺激する。「冬の八甲田に行ってみたい−」…。
とうてい無理である。寒いのは苦手だし、今は夏だし、だいいち遠い。
「行けないなら(近くの)八ヶ岳で満足しようか。」
Web日記に手拍子でそんな言葉を入力した。
数日が経ち、仕事のシフト表にぽっかりと空いた3連休の日が近づいてきた。何だ、何しよう?……そうだ、八ヶ岳に行こう!
すぐに登山地図を購入して、ルートの選定に入った。松本から列車でアプローチするか。いや、私らしく自転車ってのはどうだろう? ちょっと遠いけど、全く不可能という訳ではない。
どういうわけかマイカー使用は考慮外だった。山の空気汚しに行ってどないすんねん(極論です;私でもクルマはありえます)。
おおよその予定を立て、職場等でもさんざん「八ヶ岳に行ってくる」と吹いてしまったものだから、それはだんだん実行不可避なものとなっていった。しかし自転車でアプローチするには途中にある標高差400mアップの塩尻峠が難関となり、それを下りてからさらに登山口まで950mのアップがある。そこで一泊するが、疲れのあまり翌日八ヶ岳の登り降りなんて出来ないかも知れない。さらにまた、その日のうちに自転車で塩尻峠を越えて松本へ帰らなければならない。そんな無茶なプランは、決行前日まで机上の空論でしかなかった。
7月14日(水)
9時半過ぎに起きた。昨夜何も支度をしてなかったし、ボケボケと荷物をまとめだす。TVじゃ大リーグのオールスターでイチローがヒットを打った。…午前中には出発するつもりだったのに、やはり12時を過ぎた。今日が梅雨明けの初日とのことだ。 暑い時間帯のランとなってしまった。ボトルの水はすぐにお湯になるが、まずは塩尻峠への上り。まいど、諏訪方面へはどうしてもこの峠を越えなければならない。スグソコ的な国道20号の幹線峠なのだが、排ガスを浴びまくりながらの400mアップは、やっぱだる〜。昨日まで続いた仕事の疲れもあり、体調はあまり良くない。 空の雲行きが怪しいながらも、ウチから2時間かけて塩尻峠に立つ。ここから南八ヶ岳連峰が丘越しに望める。登る予定の赤岳・横岳・硫黄岳が、なんとなく分かった。「明日登る 山を見定め〜♪」合唱コンクールで他のクラスが歌ってた曲を思い出す。このタイミングで空からぽつぽつ来やがった。やばい! 急いで峠を下る。街中まで下りたところでいよいよ大粒のにわか雨となった。なんかの店の軒下でやり過ごす。やがて小康→止む。
そういえば昼食がまだだ。時間の遅れが気になるが、ここで下諏訪町の塩天丼というファーストフードに寄る。店の人と少し旅先の話をする。再出発して八ヶ岳山麓の茅野市に入り、西友で買い出し。3食分のパンとおにぎりである。荷物が多くなるのを嫌ってコンロやコッヘルを持ってきてないのだ。まったく、歳は取りたくないものだ。
ここからはひたすら、八ヶ岳にまっすぐ向かってのゆるい上り。住宅地を抜け、八ヶ岳中央高原の農耕地帯に入るといよいよ横いっぱいに連峰が広がる。今日の雨にはびびったが(昨日新潟県の集中豪雨で何人も死んでるし)、明日は降りませんように。時間をたっぷりかけて、へとへとになってようやく美濃戸口の別荘地帯へ。こーゆー別荘持つ人たちは高収入の成功者か、無理に借金して買ったのか、などと余計な事を考える。 最終バス停の所から林道に入る。オイオイひどい未舗装路だな。体力はすでに尽きているのに、腕力も使って力いっぱい漕がないと進まない。油断すると後輪が空回りするし。それでも最後の急坂を乗り越えると、ついに到着。本当に来てしまった美濃戸の登山口! たいへんだったけど、やっと休める。明日の事は明日の事、今日の難行を修了したのだ。
時刻は18時過ぎ、出発から丁度6時間だった。美濃戸山荘でキャンプの受付をすると、テント場は整備前だから駐車場を使ってくれと。まぁ水とトイレが使えりゃ上等だ。さっそくテントを設営し、あとは沢の大きな音を聞きながら、山荘のベンチで荷物をまとめたり日記を書いたりする。東を見上げると残照の阿弥陀岳がそびえる。あんな高さまで登るのかヨ。そのうち空気が冷えてきて、長袖を着込む。松本からの標高差1100mは思ったより寒い。さてメシにすっか。半額になってたパンとスナック菓子だけど。ケータイを取り出すと、山奥なので圏外。明日の夕方、街へ下るまで無線封止(オフラインモード)としよう。
ディナーも終わる頃、山荘でバイトしてる女の子が、私の貧しい単独キャンプを見かねて(?)トマトを差し入れに来てくれた。なんでこんな山奥にこんな奇麗な人がいるのだろう。今日明日のことなど少し話をして、トマトを食した。世の中にこんなうまいものはない。こうなったら明日、奮闘努力せねばなるまい。 |