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むらよし旅日記・其の十:そしてサイクリングは北海道へ

『サイクリング部全体合宿』道東編

8月2日〜7日

北海道の雄大さを感じに

 いろいろあった個人ラン、班合宿を乗り切り、サイクリング部最大の行事である『全体合宿』に突入した。これからしばらくユースホステルや民宿などのヤド泊になるし、ランもそれほどハードなものにはならない筈なので、気楽にいきたいところである。
 しかし全体合宿の執行は我々二年生。私の仕事は会計係、決して気楽にやっていいものではない。また全体合宿に入ってからも一年生の面倒を見るのは主に二年生。責任の重かった班合宿にうんざりする間もなく、気を引き締め直した。
 ルートは北海道の雄大さを最も感じられる“道東”に組まれてある。

8月2日(金)二人で築き上げたもの

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層雲峡を走る
 8月の北海道、寒い朝の層雲峡。ここから今夏の全体合宿が始まる。30余名をランダムで5人ずつ位の班に分け、次の宿まで走るしくみだ。今日はまず層雲峡の中を走る。一本の川が台地を深く刻んでいるその地形は、北海道のスケールのデカさをここでも物語っている。
 いつの間にかあこがれの(?)石北峠へ。さようなら道央、お別れに夕張メロンソフトクリームを買い喰いする。そして北海道といえば「熊出没注意」の黄色いステッカー。ここでついに売っているのを見つけ、マイウクレレに張っつけた。これで完璧だぜ!(何がじゃ。)
 留辺蕊(るべしべ)の方に下りる途中に、自称「世界一の鳩時計」を発見。ちょうど午後3時で動き出していたので、自転車を民家の敷地にほうり、ダッシュで見に行く。な〜んか、大したことないような。温根湯温泉はサビれてたので入らず、午後4時にもういちど鳩時計のカラクリを見て、留辺蕊の民宿に到着。ついにキャンプめしではない、まともなメシ。旅に出てから初めて布団で眠れる。
 そういえば個人ランで60kgまで減ったはずの体重が今は64kgある。体重計の誤差もあるとはいえ、やっぱり合宿ってのはなぜか太るもんだなあ。
 今日のミーティングでは各班合宿の報告があった。報告は一年生に任せたが、山楽班などの他班のに比べてキャンピング班のはいま一つ「楽しそう」じゃなかった。私と“もう一人の二年生”で築き上げたものって・・・?
 何か今日は集団走行中、指揮系のトラブルでよく事故り欠けたし、早くも団体行動に自信がなくなってきた。少し気が滅入る。

8月3日(土)ああっ女王様っ!

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合宿パンフ designed by むらよし
 耳が痛い。少し外耳炎気味のようなので注意しなくては。
 普通、全体合宿中にキャンプ用品(テントや寝袋)はいらないので、宅急便で最終日の宿に送ってしまうものなのだが、私は金をケチッて送らなかった。今日から一人だけ、重いままの状態。
 まず、北に向かう。他大学のサイクリング部合宿の連中にも会う。整然と走る他大学に比べ、ウチは暴走族の如しである。やがてサロマ湖畔に至り、砂州の先端『竜宮台』へそのままピストン。ストレートの道で他班に追い付き、いきおいスプリント合戦がおっぱじまった。重荷の私は息絶えた。ムダな体力つかったなあ。
 やがて竜宮台へ。初めて見るオホーツク海は緑っぽかった。向こうはロシアか・・・。波に足を洗いつつ灯台まで歩く。とても冷たかったが、泳いだ人もいた。
 時間がなくなってきたので急ぐ。先頭交替を繰り返すファーストラン・スタイルだ。ところである女の先輩の色気に鼻血ブー状態。男のスネ毛を見ながら走るより、この人の後ろを走る方がすごくいい。なにしろセンスがよくって・・・。
 なんて事を考えているうちにサロマ湖畔ユースホステルに着いた。部屋で堂々とウクレレを弾かせてもらう。女の子達の喝采浴びていい気になってる私。ここのユースにはフォークギターが置いてあったが、やっぱりナイロン弦のクラシックギターじゃないとしっくりこない。
 外耳炎(?)と腹痛以外は至って体調よし。気も晴れてきた。

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8月4日(日)東京への手紙

 今日は雨スタート。コンビニガッパに海パン、サンダル。跳ねた水が足にかかるのが気持ちいい。もし靴だったら不快でたまらんだろうが。“自然”を感じる事を考えると、たまには雨もいいものだ。ドシャ降りが降ったり止んだりしていた。
 そのうち北の観光都市、網走。雨が止み強い陽が差してきた。まず刑務所、そして網走駅、さらに天都山に登る。展望台からの眺めが、能取湖・網走湖・刑務所・網走市街・知床連峰とパノラマに広がりグッド。流氷館にも入り寒い思いをする。
 あとはひたすら美幌へ。途中、北海道らしい丘々に奇麗な虹がかかり、今まで見た虹の中でいちばんいいと思った。やがてユースホステル到着。外耳炎治った。
 ここらへんで、東京の家族へ手紙をしたためた。きっと喜ぶだろう。ところでひとりまだ「浮いてる」一年生がいてそれが気掛かりでしょうがないが、どうにもできなかった。

8月5日(月)“運命の黒い糸”

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日本最大のカルデラ湖、屈斜路湖
 まずはゆるい登り坂。重い荷物を載せたままの私のチャリは『重戦車』とあだ名されており「重戦車に抜かれてたまるか」と、ヒルクライムレースを煽り立てる。ガシガシやってるうちに美幌峠、屈斜路湖側はもとより北見側の眺めもすごくいい。さすが「北海道ツーリングの象徴」とまで云われているだけのことはある。天気もいいし。ここでチャリを飾るための旗を買った。美幌峠にキタキツネのデザインである。
 屈斜路湖畔和琴半島に一応寄った後、弟子屈町の摩周湖ユースホステルに荷物を置き、今度は摩周湖へのヒルクライム。どうしてもある一年生にはかなわず、くやしい。
 そして神秘の湖、摩周湖の展望台へ。ここはとにかく霧が多いことで有名だが、今日は幸か不幸かスカッ晴れ。
 あとはユースに戻りだべる。私が「帰りにはススキノも寄ってきます」と話したあたりから下ネタで盛り上がった。合宿で最も楽しい時の一つである。夕食は各個人で自由だったので、私は金をケチりコンビニのカップヤキソバ。まずい。その後はみんなで花火で遊んだ。
 今夜は全体合宿最大のイベント(?)、ペアラン決め。今回は“運命の黒い糸”というやり方。本音一年生とあたりたかったが、私は男の先輩とあたってしまった。どうせだから他のペアとは違うことをしようと、とんでもない案が出た。二人の目は光った・・・。

8月6日(火)熊出没、マジで注意

 ペアラン当日、今日の無茶をやり遂げるため補給食『カロリーメイト』を補充。道を登り下りして阿寒湖に着く。安いパンとペプシを買って、湖畔に飯喰ういい場所ないかな〜とうろついてたら、他のペアが丁度ジンギスカンを焼いていた。「ラッキー!」「なにがラッキーだよっ。」ちょっと分けてもらう。おいちい。
 おみやげに養殖マリモを買い、阿寒湖エンジェルユースホステルに荷物を置く。オンネトーを時間の都合で諦め、足寄峠の西側に回ってからいよいよ今日の無茶に入った。

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山中に迷い込み
 雌阿寒岳とフップシ岳の間に、峠状の地形がある。手持ちの地形図には道なんか書いてないし、北海道の山に入り込むのは大変危険であるが、チャレンジ意欲旺盛な我らがペアは「熊出没注意」の看板をものともせず、その峠を越えるため入山した。とはいえ熊は怖いので熊除けにチャリのベルを鳴らしまくる。さっそく雌鹿が驚いて逃げてゆく。おいおい、いるよ野性動物。地図に道はかいてないとはいえ、林業用のダートがある。それを登っていたら、こんどは何とオヤジ(熊)の足跡発見! デカい! 確実に近くにいる・・・。
 そしていくつもの分岐を越えているうちに、いつしか完全に道を失った。東へ進めばいいのだが倒木低木に阻まれ前進困難に。もう午後3時半、「林道は3時までに下れ」というオフロード界の格言もあるし、「これで勝ったと思うなよ!」と捨てゼリフを残して下山。途中熊の足跡があった所も通るのでとても怖かったが、ベル鳴らしまくりつつ、ついに国道に生還、一息つく。「久々に楽しいペアランだった。」と先輩。計画は未遂に終ったが、実にスリルある山登りだった。
 ユースに戻ると、掲示板には「雌阿寒岳周辺は現在熊出没危険」との貼紙が。さっきまでいた所じゃん・・・ゾッとした。ところで今夜のミーティングでも個人前ランの各報告があったが、みんないろんな事が起こっていた。それに比べると私のはアクシデントの少なさに物足りない程だ。用意周到・計画万全だったから?
 ここで、前ランで会ったあの筑波大生に再会! 彼は風呂を借りに来ていたらしく、お互い驚いた。元気に旅を続けてるようでよかった。

8月7日(水)突然の訃報

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鶴見峠を越える面々
 そろそろ疲れをおおいに感じてきているが、一応元気に今日もまずダートの峠。緑いっぱいのいい道、阿寒湖の眺めよし。鶴居村に下りて、大量のスパゲティを喰ったあと、昼寝1時間。そしたら時間がやばくなり、釧路湿原展望台で見るだけみて、自転車道経由で釧路の街中を急ぐ。民宿のロケーションがちょっと怪しいところにあったので迷ったが、無事到着。
 ここで大ニュースが届いた。「寅さん(渥美清)」が亡くなった・・・。地元葛飾の顔、母校(中学)の大先輩、そして映画の中の寅さんはまさに私にとって最大の人生の目標像であった。こうして旅を続けているのも彼の多大な影響によるのである。旅の最中に大きなショックを受けた。でも渥美清さんが亡くなっても、車寅次郎はまだずっと私の目標像であり続けるのだ。安らかに眠れ・・・。
 ともかく今夜は全体合宿最終日ということで大コンパ。かなり呑んだらしく何が起こっていたのかよく判らない。合宿における責任をほぼ果たし、とても酒がうまかったようだ。長かった合宿の日々も終り、明日からまたひとり個人ランが始まる。


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